人との繋がりを、大事にしていきたい
- 今回、米田さん・中山さんに、副業に関して3つのテーマについてお話いただきたいと思います。まず最初のテーマが「副業のメリット・デメリット」ですが、その前にお二人は今、副業をしているのでしょうか?
中山陽介氏(以下、中山氏):僕の場合、個人でサービス系のアプリ開発しています。「パスマネージャー」や「リミッター」などのアプリを開発しているのですが、AppStore総合ランキングは3回ほどランクインした経験もあり、累計DL数150万の実績があります。
ちなみに、これまで開発してきたアプリの数は6つ。今きちんと運用しているのは「パスマネージャー」「リミッター」「ソコネオ」の3つのみで、あとは放置してしまっている状態です。
中山氏が個人で開発したiOSアプリ
https://itunes.apple.com/jp/developer/yosuke-nakayama/id876337293
- 累計DL数150万はすごいですね!
運用しているアプリの中には、月間100万PV超えのアプリもいくつかあります。ちなみに有料会員の内訳は買い切りのユーザーが数万人で、サブスクリプション会員は2,000人程度です。
- ここまでの実績があると、「うちのアプリも開発してほしい!」と引き合いはあるのではないでしょうか?
はい。そういったお話をいただくことはありますが、極力お断りさせていただいています。
- それはなぜでしょうか? もったいない気もしますが......
受託ってクライアントの頭の中のものを形にするのが前提にある思うんです。ここに注ぐモチベーションって、プロとして完璧なものを納品するってことになるんですけど、それはこれまでに十分経験してきました。
なので、決められた場所にボタンや画像を置く仕事には、魂が込められないんです。ただ、心から共感できる案件にはできるだけ関わりたいとは思っています。
- 米田さんは今、副業をされてますか?
米田哲丈氏(以下、米田氏):2019年2月ぐらいまではやっていました。今は本業が忙しくで引き受けられないので、他の方をご紹介するか、残念ですがお断りさせていただいてます。
- 米田さんはこれまで副業/複業という働き方を数多くされてきたと伺っています。
米田氏:僕はもともとWeb制作の受託会社で働いていて、その後フリーランスとしていろいろな会社に常駐し、いろんな案件を経験してきました。僕は飽き性なので、この働き方は性に合っていたと思います(笑)
事業会社で働き始めると、ずっと1個のサービスに携わることになりますよね。そこで、副業で他社の案件をやると、本業では得られない体験ができて楽しいんですよ。
DeNA在籍時も、1つのサービスだけに関わり続けるのは飽きちゃうなって思ってたんです。そのときの事業責任者が「10メディアあるから、多分飽きないと思うよ」って言ってくれて。結局、手が回らなかったんですけどね。
- ちなみに副業をする上で大切にしていることはありますか?
米田氏:副業に限ったことではないのですが、人とのつながりを大事にしています。僕はもともとバンドが好きなんですけど、バンドって絶対解散するじゃないですか。だいたい突然解散するんですよ。だからライブは行けるときに行っとくべきだと思うんです。
DeNA時代、同じ部署内には一緒に働きたい優秀なメンバーがたくさんいました。サービス運営中は「絶対いつか絡むだろうな」って思っていて、自分からは積極的に絡みにいかなかったんです。でもバンドと同じように、事業も終わってしまう時があって、働きたい人と一緒に働ける機会があるのはいつまでも続かないのだなと実感しました。
副業だと、一緒に働きたいと思える人と働く機会が作れるので、そこが大きいメリットかなって思ってます。いつかバンドは解散するしサービスは終わる。事業だって10年続いたら長いと思うんですよ。残るのは人とのつながりだけなんです。
「自分の上手な使い方」が分かる人となら効率的
- 副業でスキル面の成長は求めていないのでしょうか?
米田氏:スキルの成長のために副業をしたいと思ったことはないです。そもそも僕は、できるだけ一緒に働いていたことのある人と働きたいと思っています。なぜかと言うと、一緒に僕と働いたことがある人は「自分の上手な使い方」を分かってくれてるんですよ。
LPやバナーの制作ももちろんできるのですが、決して得意ではない。それに、きめ細やかなワイヤーフレームをご用意いただいても、決してその通りには作らないんです(笑)
そういうことも事前に分かってくれている人と一緒に働くことで、互いに気持ちよくスムーズに仕事が進むと思うんです。もちろん初めての方とお仕事する機会もありますけど、お互いの得手不得手や最適なコミュニケーション方法がわかるまで、リードタイムがかかってしまいます。
特にスピードが求められる新規事業の場合、このリードタイムを短縮する一番の方法は、ツーカーの相手と仕事をすることだと思っています。
中山氏:共感できるところはいっぱいありますね。僕も個人で運営しているアプリの中には、昔一緒に働いてたエンジニアと二人でペアプロして作ったアプリがあります。
米田さんの話にもあったように、僕がその人の得意分野や頼み所を分かってるんです。例えばコードレビューもある程度で大丈夫だと思うし、デザインも詳細に依頼しなくても問題ないって分かってる。そういう人と一緒にやると、コミュニケーションが少なくても効率が上がるんです。
米田氏:そう、それ。
中山氏:1つの会社では特定の技術・言語にどうしても偏ってしまうことが多いと思うんですが、副業をすると異なる環境や人と関わることで知見が広がりますし、スキルも爆発的に伸びていきます。
私の場合は「副業=個人事業主」なので、全責任が自分にあります。ユーザーは満足してくれているか、サービスはこれからも継続できるかを考えたりなど、プロダクトに向き合うモチベーションが一般的な会社員と比べて全然違います。
中山氏:あと、副業で得た経験は本業でも活かせます。例えば会社で新規サービスや機能を開発する際、これまで触ったことがないような未知の技術を使って、すぐに実装しなきゃいけないケースもあると思うんです。そのような場合でも、副業で経験していればすぐに対応できるんですよ。その結果、対応力だけでなく対応速度も上がるので、本業での評価も上がると思います。
米田氏:中山さんが個人開発で作ったモジュールを本業に持ってきてますよね。その上で、本業で培ったノウハウを個人開発でも活かすってよく言ってます(笑)
仕事を通して「青春」を送りたい
- では逆に、副業におけるデメリットは何かありますか?
中山氏:サービスってナマモノじゃないですか。何かの拍子でアップデートを失敗して炎上しかけたとします。そのとき、本業でミーティングしてると、すぐに対応したいからソワソワしちゃいますね(笑)
それにある程度、副業が収益化して、会社員の給料がなくても生活ができる状況になったとき、満員電車の中でふと「うーん、そろそろ独立かなー」って思うときがあります(笑)今の会社が楽しいので、そんな気にはならないですけどね。
米田氏:よく同僚と「中山さんってなんでうちの会社にいるんだろね」って話してます(笑)
中山氏:それにはちゃんと理由があるんですよ。Twitterで米田さんがツイートしてた「仕事を通して「青春」を送りたいんですよ。」につながるんですけど、僕も青春を送りたい派なんですよ。
僕はいい事業づくりやデザインをしたいわけではなくて、仕事を通して「青春」を送りたいんですよ。事業もデザインも手段。
だから難しい事業がいいし、喧嘩もしたいし、癖のあるメンバーと働きたい。
マイノリティーと思ってたけど(公言できなくても)似た価値観の人がいると知って、とても嬉しい。
— ちょねだ / クックパッド (@tyoneda) April 11, 2019
中山氏:個人開発って一人の時間が長くなるんですね。どんなに売上が上がったとしても数字のカウンターが上がるだけ。人と話さなくなるし、孤独でつまらないって思うようになるんです。
会社員なら、優秀なメンバーと開発したりランチ行ったり、リリースした喜びを分かち合えるんですよね。本業と副業をいいバランスで持っておくと、精神的にも安定します。
- なかなかエモいツイートでしたよね! 米田さん、この真意を教えてください。
米田氏:常日頃から思ってることなんです。僕の理想の働き方を考えたときに、映画俳優ってめっちゃいいなって思ってて。その映画のためだけに集まった俳優たちと映画を撮って、終わったら解散するじゃないですか。そして映画の続編を作ることになったら、同じスタッフが集結して作るんですよね。こういう働き方って、刹那的で濃厚な時間が送れてると思うんです。
米田氏:会社員でもこういう時間って送れると思っています。自分は仕事を通して何を得たいかっていうと、例えば僕が優秀で「売上が伸びてユーザーにも愛されるサービスを提供していく」、ということだけを叶えたいかと言われると、それは違うなと。
もちろん売上を上げることやいいサービスを作ることにコミットはしてるんですけど、その過程にある失敗や挫折を楽しんでるんだと思うんですよね。きっとみんな、薄っすらとは感じてることだと思うし、特別なことを言ったつもりはないと思ってます。
ただ、これを公言するのは勇気が入りますね。ユーザーや株主といったステークホルダーがいるからです。株主の前で「僕は青春のために仕事をしている」とは言えないですよね(笑)
- 米田さんは副業のデメリットをどのようにお考えですか?
米田氏:僕の場合は、仕事を選んでしまうことがデメリットだと思います。フリーランスとして仕事をしているときに、家だと作業効率が低くなっちゃうので、仕事を持ち帰らないというポリシーを掲げていたんです。報酬を統一して、お金で仕事を選ばない仕組みにしていました。
今もこのポリシーは変わらず、いざ副業をするとなると、平日の夜か土日にクライアントのオフィスへ行くことになります。ただそれにも限界はあり、仕方なく持ち帰りになることもあるでしょう。でも毎晩、クライアントのところへ行ったり、家で仕事をしたりっていうのは、僕のライフスタイルに合ってないですね。
ですので、量はできないし、スピードも落ちるので、やるとしたら長期的なプロジェクトなのか、アドバイザーのような限定的なコミットでも貢献できるような形かなと思っています。
副業をしていると精神的に安定する
- 続いてのテーマはこちら。お二人にとって副業とはどのようなものでしょうか?
中山氏:さっきも話に出ましたが、精神安定剤ですね。自分でサービスを運営しているので、常に何かをしている状態なんですね。個人でのアプリ開発を通じて「やりたいことやってる!」と日々充実しているので、これが精神を安定させてくれます。
あとは、ある日突然が会社がなくなったとしても、なんとかなると思っています。だからこそ、横柄になるわけではないのですが、社内で人の顔色を伺って発言することがなくなりました。結果として、クックパッドマートの開発においても「発言責任」を全うでき、チーム内の空気も「よし、やってやろう!」という前向きな雰囲気になっています。
米田氏:それはフリーランスのときにすごく思ってました。複数のクライアントがいたから、どれか1つのクライアントに嫌われても生きていけるって自信があったんで、媚は売りませんでした。それよりも本質に向かうことだったり、思ってることを言える状態が大切ですね。
- 副業にはこれからどのように向き合っていくのでしょうか?
中山氏:個人で開発しているアプリには、「1人で年商1億円」という目標を設定してます。
米田氏:いけそう(笑)
中山氏:しかも、1つのアプリで、かつサブスクリプション型で目指そうと思ってます。とても大きな目標ですよね。でも誰からも支援してもらうわけでもなく、「1人で年商1億円」を実現できたら、かなり自信になると思うし、副業でもここまでいけるってことを証明したいですね。
米田氏:多分みなさんも社外の方から「どうしたらいい?」って仕事の相談にのることがあると思うんですよね。僕の副業も、その延長線上にあると思っています。
冒頭でお話したように、2019年2月ぐらいまでは、知り合いの会社からデザインの相談を受けてプロトタイプを作ったり、そもそもデザイン制作の進め方が不十分な場合、デザイン設計のプロセスをアドバイスしていたケースもありました。
もしかしたらこれも「副業」と呼べるものかもしれませんが、僕にとっては、知ってる人が困ってるから相談に乗ってるぐらいの感覚。副業とか収入とか関係なく、これからも人とつながり続けていたいですね。
クリエイターの未来は、個の躍進とプロジェクト雇用
- では最後のテーマです。これからクリエイターの働き方についてお二人のお考えを聞かせてください。
米田氏:僕は今だったらリモートワークができそうな気がします。コミュニケーションはSlackが当たり前になってるし、デザインツールのFigmaを使えば、隣に人がいようがいよまいが変わらない働き方ができるかもしれません。
今ではオンラインのミーティングツールも充実していますし、これからのデザイナーは、仮に地方にいても東京の仕事ができるようになるのではないでしょうか。もしかしたら旅行をしながら仕事をする、というデザイナーが増えていくかもしれませんね。
中山氏:エンジニアで言うと、サーバーサイドエンジニア、フロントエンドエンジニア、コーダーっていろんな専門領域があるじゃないですか。これが1個に集約するんじゃないかって予想してます。
たとえばFirebaseがあれば、フロントもバックエンドも1人でできちゃうんですよね。副業サイトでデザインの仕事を発注して、画像はレンタルポジのサイトで探したりなど、個人でサービスを開発するエンジニアがさらに増えていく気がしています。
それに、ツールや環境が整備されれば、1人でサービスを作るのがさらに当たり前という状態になるので、クリエイターも垣根がなくなるんじゃないかと思っています。今後、こういう人たちがもっと増えていく気もしているので、会社自体が減っていくのではないでしょうか。
米田氏:でも、事業に共感して入社する人は多いと思うんですよね。だからこそ、何かの理由で事業がなくなったとき、会社に残る意味ってあるのか、みんな考えると思うんです。
なので、プロジェクト制にして、プロジェクトが終わったら解散、みたいな感じで「プロジェクト雇用」みたいなものが生まれてきたらいいですね。そうなったら、僕のやりたい映画作りのような青春がたくさん送れると思います(笑)
- ありがとうございました。