ファームウェアや制御ソフトの開発を続けてきて、年収1,000万円は組み込みの仕事のままで届く額なのか、役割や領域を変えないと届かない額なのかを知りたい人は多いはずです。

マネジメントや AI・IoT の技術を身につけると年収が上がる、という説明はよく見かけます。ただ、どの条件の求人で1,000万円が年収の幅に入るのかを、数で比べた記事は多くありません。

公的統計で組み込み開発に近い職業の区分の年収を年齢・企業規模・役職の有無で分け、Offers に掲載された組み込み開発の経験を求める正社員求人で、1,000万円が年収の幅のどこに置かれているかを並べました。次に狙う求人と、広げる役割を決めるための材料です。

統計の平均は組み込み開発に近い区分でも937.1万円が上端

厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」で、組み込み開発に近い「電気・電子・電気通信技術者」の年収を換算すると、最も高いのは従業員1,000人以上の企業の50〜54歳で937.1万円です(男女計。毎月きまって支給する給与の12か月分と年間賞与などの合計を編集部が算出)。

ソフトウェアの設計・実装を担う「ソフトウェア作成者」は、1,000人以上の企業の45〜49歳の806.5万円が最も高い値でした。統計の平均で見るかぎり、どちらの区分も年齢と企業規模を最も有利な組み合わせにして1,000万円に届きません。

年齢

電気・電子・電気通信技術者(企業規模計)

電気・電子・電気通信技術者(1,000人以上)

ソフトウェア作成者(1,000人以上)

30〜34歳

668.2万円

715.8万円

636.1万円

35〜39歳

719.3万円

794.4万円

709.9万円

40〜44歳

825.5万円

885.5万円

746.0万円

45〜49歳

830.5万円

897.5万円

806.5万円

50〜54歳

850.6万円

937.1万円

806.3万円

55〜59歳

874.8万円

926.4万円

785.5万円

出所:厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査 職種第5表」をもとに年収換算は編集部が算出(男女計)。

年齢別の表は、同じ人の年収の推移ではなく、年齢ごとに働いている人の平均を並べたものです。平均の下には1,000万円を超える人も含まれますが、区分全体で見ると、1,000万円は年齢を重ねれば自然に届く額ではありません。

組み込みエンジニアは統計で2つの区分にまたがる

厚生労働省の賃金構造基本統計調査に「組み込みエンジニア」という区分は無く、ファームウェアや制御ソフトの実装を担う人は「ソフトウェア作成者」に、回路や機器を含む開発を担う人は情報機器開発技術者などを含む「電気・電子・電気通信技術者」に近い位置にいます。

本稿は2つの区分の値を、組み込みエンジニアの年収を測る物差しとして並べました。全年齢の平均では、電気・電子・電気通信技術者が703.9万円、ソフトウェア作成者が578.5万円です(企業規模計・男女計・編集部算出)。

組み込み開発で使われる言語の需要は「C言語の将来性」で整理しました。

給与所得者で1,000万円を超える人は6.2%

国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」で、1年を通じて勤務した給与所得者のうち給与が1,000万円を超える人は6.2%です(男女計・1,000万円超の4つの階級の構成割合を編集部が合計)。

職種を問わない値ですが、1,000万円は給与所得者の上位およそ6%に入る額でした。組み込みエンジニアの統計の平均が届かないのも、この位置を考えれば不思議ではありません。

役職者を除いた電気・電子・電気通信技術者は662.1万円

「令和7年賃金構造基本統計調査」の役職者を除いた表で年収を換算すると、電気・電子・電気通信技術者は662.1万円で、役職者を含む703.9万円より41.8万円低くなります(企業規模計・男女計・平均年齢40.3歳・編集部算出)。従業員1,000人以上の企業でも、役職者を除くと701.7万円です。

統計の平均には、課長や係長などの役職に就いた人も含まれています。役職に就かずに開発を担い続ける人の平均は、全体の平均よりさらに1,000万円から離れます。

区分

役職者を含む

役職者を除く

電気・電子・電気通信技術者・企業規模計

703.9万円

662.1万円

電気・電子・電気通信技術者・1,000人以上

749.7万円

701.7万円

ソフトウェア作成者・企業規模計

578.5万円

519.4万円

ソフトウェア作成者・1,000人以上

640.9万円

561.4万円

出所:厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査 職種第1表」・「職種第3表(役職者を除く)」をもとに年収換算は編集部が算出(男女計)。

統計の上では、組み込み開発の担当のまま1,000万円に届く人は平均から大きく離れた一部です。1,000万円を転職で狙うなら、統計の平均ではなく、求人がどの役割にどこまでの年収を示しているかを見る必要があります。

エンジニア全体の職種区分と1,000万円に届く条件は「エンジニアの年収1,000万円」で扱いました。

組み込み経験を求める求人の34.2%が上限1,000万円以上

Offers に掲載された、題名か応募条件に組み込み開発の語がある正社員求人では、提示年収の上限が1,000万円以上の求人が38件中13件(34.2%)で、上限の中央値は900万円、下限の中央値は475万円でした(Offers(株式会社overflow)調べ・題名か応募条件に組み込み開発の語がある正社員求人 n=38・2022年9月〜2026年8月公開)。

提示年収は、求人が示す年収の幅です。下限は求人の要件を満たす人に示す額の下端、上限は経験と役割が合う人に出せる額の上端を指します。統計の平均では届かない1,000万円も、組み込みの経験を求める求人の約3分の1では年収の幅の上側に入っていました。

組み込みエンジニアとして募集している正社員求人は、Offers Jobs の組み込みエンジニアの求人一覧で探せます。求人一覧のカードには各求人の年収・雇用形態・勤務地が出るので、会員登録なしで年収の幅を見比べられます。

役割の語がある求人は上限1,000万円以上が62.5%

38件を題名の語で分けると、リーダー・マネージャー・責任者・PM(プロジェクトマネージャー)・テックリードなど役割の語が題名にある求人(8件)は、上限1,000万円以上が5件(62.5%)で、語が無い求人(30件)の8件(26.7%)より高い割合でした。上限の中央値は1,050万円と700万円です(Offers(株式会社overflow)調べ・題名か応募条件に組み込み開発の語がある正社員求人 n=38・2022年9月〜2026年8月公開)。

本文に AI・機械学習・画像認識・生成AI などの語がある求人(13件)も、上限1,000万円以上が7件(53.8%)で、語が無い求人(25件)の6件(24.0%)を上回りました。

求人の題名・本文の語

年収記載のある求人

上限の中央値

上限1,000万円以上

題名に役割の語がある

8件

1,050万円

5件(62.5%)

題名に役割の語が無い

30件

700万円

8件(26.7%)

本文に AI の語がある

13件

1,000万円

7件(53.8%)

本文に AI の語が無い

25件

800万円

6件(24.0%)

この比較は、語が出てくる求人と出てこない求人の提示年収の違いを見たものです。役割や AI の経験があれば年収が上がるという因果を示すものではなく、差には募集する会社の事業や規模、開発体制の違いも含まれるため、役割の語がある求人で上限が高めに出やすい、という目安として使ってください。

上限1,000万円以上の13件に並ぶ仕事

上限が1,000万円以上の13件の題名を見ると、役割の語がある求人が5件、自動運転・モビリティ・ECU(電子制御ユニット)の語がある求人が4件で、両方に当たる1件を除くと8件がどちらかに当たりました。

残る5件のうち3件は、機械学習のアルゴリズムをマイコンで動かす開発、工場の全体制御のソフトウェア、生成AI のプロダクト開発で、組み込みの技術をほかの領域と組み合わせる仕事です。

Offers の求人では、組み込み開発の経験をチームの統括や AI と組み合わせて使う求人で、1,000万円が年収の幅に入る割合が高めでした。統計で役職者を含む平均が除いた平均より高かったことと、同じ向きの差です。

C++ を使う組み込み・制御系の求人で求められるスキルは「C++エンジニアの転職」で整理しています。

チームを率いた範囲を数で書く

役割の語がある求人では、ソフトウェアを書いたことに加えて、開発をどう前に進めたかが問われます。担当したモジュールの数、レビューを担った人数、協力会社を含む体制の規模、見積もりから出荷までの工程のどこを受け持ったかは、肩書きが無くてもリーダーの経験として書ける材料です。

職務経歴書には、自分が決めた設計の方針と、その結果として変わったこと(不具合の件数・試験にかかる期間・量産までの日程)を、チームの成果と分けて書くのが基本です。

機器の外側の仕組みとつながった経験を書く

センサーデータをクラウドへ送る通信の実装、機械学習のモデルをマイコンや車載の環境で動かした経験、ROS(Robot Operating System)や組み込み Linux の上での開発は、機器の中だけの開発と分けて書きます。AI の語がある求人で上限が高い傾向は、前の表のとおりです。

チームの技術判断を担うリードエンジニアの正社員求人が、どの経験にどの年収の幅を示しているかは、Offers Jobs のリードエンジニアの求人一覧で見比べられます。担ってきた範囲に近い求人を選ぶと、次に狙う年収帯が具体的になります。

統計の年収換算と求人の提示年収は測っているものが違う

「令和7年賃金構造基本統計調査」の年収換算は、実際に働いている人に支払われた給与と賞与の平均です。Offers の提示年収は、転職者を迎える側が求人で示した年収の幅で、入社後に支払われた額ではありません。統計は「同じ区分で働く人の平均」、求人は「転職したときに示される年収の幅」を見るものとして使い分けます。

求人の上限1,000万円は、経験と役割が合う人への額で、応募すれば上限が示されるわけではありません。組み込みエンジニアが年収1,000万円を転職で狙うなら、求人本文が求める役割(機器の中の実装だけか、チームの統括や AI・自動運転の仕組みまでか)と自分の経験を突き合わせ、上限が1,000万円を超える求人の条件にどこまで当たるかを確かめるのが近道です。統計の区分の平均も、年齢と勤め先の規模が近い行を物差しにしてください。