プロダクトオーナー(PO)は、スクラムでプロダクトの価値を高める判断を1人で引き受ける役割です。開発チームが次に何を作るかの並び順を決め、関係者の要望を受け止めて、その結果に責任を持ちます。名前の似たプロジェクトオーナーやプロダクトマネージャーとは責任の範囲が違います。スクラムの公式ガイドとOffersの正社員求人の集計をもとに、役割・違い・求められる経験・年収の順に整理しました。

プロダクトオーナーの定義と責任の範囲

プロダクトオーナーは、スクラムチームが生み出すプロダクトの価値を最大化することに、結果の責任を持つ役割です。スクラムの考案者であるKen SchwaberとJeff Sutherlandがまとめた公式ガイド『スクラムガイド』2020年11月版は、プロダクトオーナーを「プロダクトの価値を最大化することの結果に責任を持つ」と定め、その方法は組織・スクラムチーム・個人によってさまざまだとしています(スクラムガイド 2020年版 日本語版)。

スクラムチームは、スクラムマスター1人、プロダクトオーナー1人、複数人の開発者で構成され、通常は10人以下です(スクラムガイド2020年版)。

ガイドは、開発者・プロダクトオーナー・スクラムマスターの3つを「明確な責任」として定めています。プロダクトオーナーが受け持つのは「何を、どの順番で作るか」の判断で、選んだ作業をどう成し遂げるかは開発者だけの裁量です。スクラムのやり方がチームと組織に根づくよう支えるのは、スクラムマスターの仕事になります。

プロダクトバックログ管理でプロダクトオーナーが担う4つの仕事

プロダクトオーナーは、効果的なプロダクトバックログ管理にも責任を持ちます。プロダクトバックログとは、プロダクトの改善に必要なものを順番に並べた一覧で、スクラムチームが行う作業の唯一の情報源です。ガイドは管理の例として、次の4つを挙げています。

  • プロダクトゴールを策定し、明示的に伝える
  • プロダクトバックログアイテムを作成し、明確に伝える
  • プロダクトバックログアイテムを並び替える
  • プロダクトバックログに透明性があり、見える化され、理解されるようにする

これらの作業は他の人に委任してもよいものの、いずれの場合も最終的な責任はプロダクトオーナーが持ちます。バックログアイテムの文章を開発者が書くのは構いませんが、何を先に作るかの最終判断はプロダクトオーナーに残るということです。バックログそのものの考え方はバックログとは何かで詳しく扱っています。

プロダクトゴールは、2020年版で新たに導入された考え方です。プロダクトの将来の状態を表すスクラムチームの長期的な目標で、チームは次の目標に移る前に、今の目標を達成するか放棄しなければなりません。プロダクトオーナーはこのゴールを決めて言葉にし、バックログの並び順をゴールに向けてそろえる役目を負います。

プロダクトオーナーを1人に限る理由と決定の権限

スクラムガイドは、プロダクトオーナーを1人の人間であり委員会ではないと定めています。プロダクトオーナーは多くのステークホルダーのニーズをバックログで表している場合があり、ステークホルダーがバックログを変えたいときはプロダクトオーナーを説得する、というのがガイドの決まりです。要望を出す人が何人いても、並び順を決めるのは1人だということになります。

ガイドは、プロダクトオーナーをうまく機能させるには組織全体でその決定を尊重しなければならないとも書いています。スプリント(1か月以内の決まった長さで区切る開発の期間)を途中で中止する権限を持つのも、プロダクトオーナーだけです。役員や他部署が開発チームに直接仕事を頼む割り込みが起きたときも、その要望をいったんプロダクトオーナーが受け止め、並び順に反映するかを決める形にしておくと、チームはスプリントの計画を守りやすくなります。

スプリントの中でプロダクトオーナーが担う仕事

スプリントの中でプロダクトオーナーが関わる場面は、スプリントプランニングでの価値の提案、期間中のバックログの手入れと開発者からの相談への対応、スプリントレビューでの関係者との確認の3つが中心です。デイリースクラムは開発者のための15分のイベントで、プロダクトオーナーは自分もスプリントバックログのアイテムに取り組んでいる場合に、開発者として参加します。

場面(スクラムのイベント)

プロダクトオーナーの関わり方

時間枠(1か月のスプリントの場合)

スプリントプランニング

今回のスプリントでプロダクトの価値をどう高められるかを提案する。参加者が、最も重要なアイテムとプロダクトゴールとの関連を話し合う準備ができているかを確かめる

最大8時間

スプリントの期間中

学習が進んでスコープが明確になったときの再交渉に応じる。リファインメント(アイテムを小さく詳しくする活動)では、開発者がトレードオフを理解して選択できるよう支援することもできる

継続的に行う

デイリースクラム

開発者のためのイベント。アイテムに取り組んでいる場合は開発者として参加する

15分

スプリントレビュー

スクラムチームとして主要なステークホルダーに成果を示し、プロダクトゴールへの進捗を話し合う。必要ならバックログを調整する

最大4時間

スプリントレトロスペクティブ

スクラムチームの一員として、進め方の改善を話し合う

最大3時間

出所: Ken Schwaber・Jeff Sutherland『スクラムガイド』2020年11月版 日本語版。

スクラムガイドに書かれていない仕事も、プロダクトオーナーの時間の多くを占めます。ユーザーへのインタビューや利用データの確認で次に解く課題を見つけること、営業やカスタマーサポートから届く要望を整理すること、経営陣とプロダクトの方向性をすり合わせることなどです。ガイドは方法を各組織に任せているため、これらをどこまでプロダクトオーナーが担うかは会社によって違います。

プロダクトオーナーとプロジェクトオーナー・PdMの違い

プロダクトオーナーは「プロダクトの価値」に、プロジェクトオーナーは「一つのプロジェクトの最終的な判断」に責任を持つ点が違います。プロダクトマネージャー(PdM)はプロダクトの方向性と事業の成果に責任を持つ職種名で、スクラムガイドには出てきません。スクラムマスターは、スクラムがチームと組織で機能するよう支える役割です。

役割

責任を持つ対象

定義の出どころ

プロダクトオーナー(PO)

スクラムチームが生み出すプロダクトの価値の最大化と、プロダクトバックログの管理

スクラムガイド

スクラムマスター(SM)

スクラムを確立させることと、スクラムチームの有効性

スクラムガイド

開発者

各スプリントで利用可能なインクリメント(完成した成果物)を作ること

スクラムガイド

プロダクトマネージャー(PdM)

プロダクトの方向性と、利用や売上などの事業の成果

各社の職種名(スクラムの用語ではない)

プロジェクトマネージャー(PM)

一つのプロジェクトを範囲・納期・予算・品質を守って完了させること

各社の職種名・プロジェクトマネジメントの用語

プロジェクトオーナー

プロジェクトの最高責任者。プロジェクトを止める権限を持つ

プロジェクトマネジメントの用語(スクラムガイドには無い)

プロジェクトオーナーとプロダクトオーナーは別の役割

プロジェクトオーナーは、プロジェクト全体の最高責任者を指す言葉で、スクラムのプロダクトオーナーとは別の役割です。特定非営利活動法人ビジネスシステムイニシアティブ協会(BSIA)の「ITプロジェクト逆転のシナリオ辞典」は、プロジェクトオーナーを「プロジェクトの最高責任者」とし、プロジェクトチャーター(目的や体制を定めた立ち上げの文書)に関わる事項を変更する場合があり、特にプロジェクト停止の権限を持つと説明しています(BSIA「プロジェクトオーナー(project owner)」)。

両者の違いは、責任を持つ単位にあります。プロジェクトには終わりがあり、プロジェクトオーナーはその一つのプロジェクトを続けるか止めるかを決める立場です。プロダクトオーナーが向き合うプロダクトはリリース後も改善が続き、スプリントごとに何を作るかを決め続けることになります。スクラムガイドの日本語版には「プロジェクトオーナー」という語が出てこないため、社内でプロジェクトオーナーと呼ばれている人が、スクラムのプロダクトオーナーと同じ権限を持っているとは限りません。

PdMとプロダクトオーナーを分ける会社と兼ねる会社

PdMとプロダクトオーナーの分け方は会社ごとに違います。Offersの正社員求人で題名がプロダクトマネージャー・プロダクトオーナー系の求人(以下、PdM・PO職)105件のうち、題名に「プロダクトオーナー」を含む求人は6件でした。

求人概要・必須条件・歓迎条件・業務内容の欄に「プロダクトオーナー」か「product owner」の語が出てくる求人は10.5%(11件)です(Offers(株式会社overflow)調べ・題名がプロダクトマネージャー・プロダクトオーナー系の正社員求人 n=105・2022年3月〜2026年9月公開)。

語が出てくる11件のうち8件は、必須条件か歓迎条件の欄でプロダクトオーナーとしての経験を求める書き方でした。「プロダクトマネージャー・プロダクトオーナーの経験」のように、PdMや事業責任者の経験と並べて書く求人もあり、求人の上では、プロダクトオーナーの経験はPdMの経験に近いものとして読まれていると考えられます。

自社サービスの会社では、PdMが市場や事業の目標から進む方向を決め、プロダクトオーナーがそれを開発チームのバックログに落として並び順を決める分担もあれば、1人が両方を兼ねる体制もあります。求人を見るときは題名より業務内容の欄を読み、バックログの管理や優先順位の決定まで任されるかを確かめるほうが確実です。

PdMの仕事と道筋はプロダクトマネージャーのキャリアパス、スクラムマスターの仕事はスクラムマスターの年収とスキル、プロジェクトマネージャーとの違いはITのプロジェクトマネージャーとはにまとめています。Offersでは、PdM・プロダクトオーナーの正社員求人を業務内容まで読み比べ、自分の経験が生きる募集を探せます。

求人に見るプロダクトオーナーに必要なスキル

プロダクトオーナーに要るスキルは、何を先に作るかを決める判断力、利害の違う関係者と合意をつくる調整力、ユーザーの課題をつかむ調査力、開発の中身を理解する技術の素養の4つです。PdM・PO職の求人105件を見ると、本文に「ロードマップ」が出てくる求人が51.4%、「要件定義」が45.7%、「ステークホルダー」「関係者」が42.9%でした(Offers(株式会社overflow)調べ・題名がプロダクトマネージャー・プロダクトオーナー系の正社員求人 n=105・2022年3月〜2026年9月公開)。

105件のうち題名にプロダクトオーナーを含むのは6件で、下の表は主にPdMの求人に書かれた語の割合です。プロダクトオーナーと重なる仕事で求められるものの目安として見てください。

数えた語(どれか1つが求人概要・必須条件・歓迎条件・業務内容の欄に出てくる求人を数えた)

割合

ロードマップ

51.4%

要件定義

45.7%

ステークホルダー/関係者

42.9%

優先順位/優先度/プライオリティ/優先付け

38.1%

エンジニア経験/開発経験/エンジニアとして/エンジニアリング経験

33.3%

KPI/KGI/OKR

26.7%

ユーザーインタビュー/ユーザーヒアリング/顧客ヒアリング/ユーザーリサーチ

24.8%

SQL

19.0%

スクラム

18.1%

アジャイル

17.1%

プロダクトオーナー

10.5%

生成AI/LLM/ChatGPT/大規模言語モデル

6.7%

バックログ

2.9%

出所: Offers(株式会社overflow)調べ・題名がプロダクトマネージャー・プロダクトオーナー系の正社員求人 n=105・2022年3月〜2026年9月公開。

優先順位を決める判断力と合意をつくる調整力

限られた開発の時間をどの機能に使うかを決めることは、プロダクトオーナーとPdMに共通する中心の仕事で、求人に「ロードマップ」と「優先順位」の語が多く出てくるのもそのためだと見るのが自然です。並び順を決めるには、売上や利用への影響、作るのにかかる手間、後回しにしたときのリスクを比べ、選ばなかった要望の持ち主にも理由を説明する必要があります。ステークホルダーや関係者の語が4割を超える求人に出てくることからも、この合意づくりが重く見られていることがうかがえます。

ユーザーの課題をつかみ、数字で確かめる力

ユーザーインタビューやヒアリングの語が出てくる求人は24.8%、KPI・KGI(重要目標達成指標)・OKR(目標と主要な成果)は26.7%、SQL(データベースを操作する言語)は19.0%です。何を作るかを決める根拠をユーザーの声と利用データから集める力も、求人で求められている要件の一つです。SQLで自分でデータを引ければ、施策の結果をアナリストに頼まず確かめられるので、次の並び順の判断を早められます。

開発の中身を理解する技術の素養

エンジニア経験や開発経験の語が出てくる求人は33.3%です。プロダクトオーナーは自分で実装しなくても、開発者が示す見積もりやトレードオフを理解し、仕様を小さく切って早く届ける案を一緒に考えられる必要があります。エンジニア出身の人にとっては、ここがプロダクトオーナーへ移るときの強みになります。

資格(CSPO・PSPO)の位置づけ

プロダクトオーナー向けの代表的な認定は、Scrum Allianceの「Certified Scrum Product Owner(CSPO)」と、Scrum.orgの「Professional Scrum Product Owner I(PSPO I)」の2つです。PdM・PO職の求人105件のうち、CSPO・PSPOの名前を書いた求人は2件でした。

CSPOはScrum Allianceが発行する認定で、取得のための研修コースが用意されており、2年ごとに更新料と学習の単位(SEU)を出して更新します(Scrum Alliance「Certified Scrum Product Owner」)。

PSPO Iは試験で知識を確かめる認定で、80問・60分・合格点85%、受験料は1回200米ドルです。研修の受講は受験の条件ではありません(Scrum.org「PSPO I」・2026年10月1日時点)。

面接では資格名より、どの規模のプロダクトでバックログの並び順を決め、何を成果として出したかという実績を説明できるよう準備しておくほうが確実です。

PdM・PO職の求人に見るプロダクトオーナーの年収帯

プロダクトオーナーの年収は、PdMとあわせた求人の年収帯で見るのが現実的です。題名がプロダクトマネージャー・プロダクトオーナー系の正社員求人のうち、年収の下限と上限を書いた103件では、下限の中央値が600万円、上限の中央値が1,000万円でした。上限が800万円以上の求人は96.1%、1,000万円以上は72.8%です(Offers(株式会社overflow)調べ・年収の下限と上限を記載したPdM・PO職の正社員求人 n=103・2022年3月〜2026年9月公開)。

題名の区分

年収記載の件数

下限の中央値

上限の中央値

上限800万円以上

上限1,000万円以上

プロダクトマネージャー・プロダクトオーナー系

103

600万円

1,000万円

96.1%

72.8%

正社員求人の全体

3,257

540万円

970万円

78.0%

47.6%

出所: Offers(株式会社overflow)調べ・年収の下限と上限を記載した正社員求人 n=3,257・2022年3月〜2026年9月公開。

PdM・PO職の求人は、下限・上限の中央値とも正社員求人の全体を上回り、上限が1,000万円以上の求人の割合は全体より約25ポイント高くなりました。求人の年収は提示の幅であり、実際の年収は経験と面接での評価で決まります。

公的統計では、厚生労働省の令和7年賃金構造基本統計調査の職種(小分類)に、プロダクトオーナーやプロダクトマネージャーの名前を持つ区分がありません(厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」職種(小分類)第1表)。

検索で見つかるプロダクトオーナーの平均年収には、集計の方法や母数が書かれていない数字もあるため、求人の年収帯と照らして読むと判断を誤りにくくなります。PdMの年収はプロダクトマネージャーの年収で詳しく扱っています。

エンジニアからプロダクトオーナーを目指す道筋

エンジニアからプロダクトオーナーを目指すなら、今のチームでバックログの手入れや要件の整理を少しずつ引き受け、何を作るかを決めた経験を実績として残すのが近道です。Offersの正社員求人のうちエンジニア職の2,275件で、本文に「プロダクトオーナー」か「product owner」の語が出る求人は30件でした(Offers(株式会社overflow)調べ・エンジニア職の正社員求人 n=2,275・2022年3月〜2026年9月公開)。

エンジニア求人での書かれ方は「プロダクトオーナーやデザイナーと連携しながら、仕様策定から改善提案まで」のように連携する相手としてのものと、「プロダクトオーナー補佐からはじまり」「エンジニアリングマネージャー、プロダクトオーナーといったキャリア」のように入社後の行き先としてのものに分かれます。

エンジニアのうちに取りにいける経験には、次のようなものがあります。

  • リファインメントで、バックログアイテムを小さく分け、受け入れの条件を書く役を引き受ける
  • ユーザーインタビューや問い合わせの分析に同席し、解くべき課題を言葉にする
  • SQLで施策の前後の数字を引き、結果を振り返る場をつくる
  • 営業や事業部門からの要望を集め、優先順位の案を作って説明する

転職先を探すときはPdMの求人まで広げ、業務内容の欄でバックログの管理や優先順位の決定を任されるかを確かめるとよいでしょう。経験を積んだあとの道は、複数のチームやプロダクトをまたぐシニアのPdM、プロダクト全体を率いる責任者、エンジニアリングマネージャーへの転身などに分かれます。Offersでは、プロダクトマネージャー・プロダクトオーナーの正社員求人を探し、企業からのスカウトを受け取れます。