エンジニアが転職を考えるきっかけは、給与への不満だけではありません。会社の先行きへの不安や、任される仕事への物足りなさが重なって、転職を決めることが多くあります。面接で転職理由を聞かれたときに、本音をどこまで話すかに迷う人も少なくありません。
厚生労働省が2026年9月に公表した転職者の調査から、IT業界(情報通信業)で働いていた人が前の会社を辞めた理由を順位にして整理しました。理由ごとに転職先の求人と面接で確かめる点、面接での伝え方と例文、避けたい答え方も扱います。
エンジニアの転職理由は会社の将来・賃金・仕事内容が上位
IT業界から転職した人の離職理由で多いのは、会社の将来への不安、賃金の低さ、仕事内容への不満の3つです。厚生労働省「令和7年転職者実態調査」の個人調査で、直前の勤め先が情報通信業で自己都合で辞めた人の理由(3つまで回答)は、「会社の将来に不安を感じたから」35.0%、「賃金が低かったから」33.9%、「満足のいく仕事内容でなかったから」31.9%の順でした。
順位 | 自己都合で辞めた理由(3つまで) | 情報通信業 | 全産業 |
|---|---|---|---|
1 | 会社の将来に不安を感じたから | 35.0% | 25.2% |
2 | 賃金が低かったから | 33.9% | 25.5% |
3 | 満足のいく仕事内容でなかったから | 31.9% | 24.7% |
4 | 人間関係がうまくいかなかったから | 22.6% | 22.2% |
5 | 能力・実績が正当に評価されないから | 19.1% | 18.9% |
6 | 労働条件(賃金以外)がよくなかったから | 17.7% | 23.4% |
7 | いろいろな会社で経験を積みたいから | 16.4% | 17.1% |
8 | 他によい仕事があったから | 16.1% | 13.5% |
9 | 安全や衛生等の職場環境がよくなかったから | 10.9% | 8.3% |
10 | 結婚・出産・育児のため | 4.0% | 6.4% |
出所:厚生労働省「令和7年転職者実態調査」個人調査 第20表(2025年10月1日現在・直前の勤め先の産業別・自己都合による離職者・「その他」を除いて順位付け)。
全産業と比べると、情報通信業は上位3つの理由がいずれも7.2〜9.8ポイント高く、労働条件(賃金以外)は5.7ポイント低くなっています(差はOffersが算出)。残業や休日よりも、事業の先行き・給与・仕事の中身に不満を持って辞める人が多い業界です。
情報通信業には、ソフトウェア開発のほかに通信・放送・出版なども含まれます。表の値はエンジニアだけを数えたものではありませんが、IT業界で働く人の転職理由を公的統計で見られる区分として、もっとも近い値です。
一番の理由に絞ると賃金が最も多い
辞めた理由を1つだけ選ぶと、IT業界から転職した人で最も多いのは賃金の低さです。同じ調査の第21表で、直前の勤め先が情報通信業の人の一番の理由は「賃金が低かったから」が17.2%で、2番目の「会社の将来に不安を感じたから」10.3%を大きく上回りました。
一番の理由 | 情報通信業 | 全産業 |
|---|---|---|
賃金が低かったから | 17.2% | 10.7% |
会社の将来に不安を感じたから | 10.3% | 10.0% |
満足のいく仕事内容でなかったから | 10.1% | 11.0% |
人間関係がうまくいかなかったから | 10.0% | 12.8% |
労働条件(賃金以外)がよくなかったから | 9.8% | 10.5% |
能力・実績が正当に評価されないから | 8.6% | 5.1% |
出所:厚生労働省「令和7年転職者実態調査」個人調査 第21表(2025年10月1日現在・自己都合による離職者)。
全産業では一番の理由の最多は人間関係(12.8%)です。IT業界では賃金と評価の割合が全産業より高く、「自分の仕事が給与と評価に結びついていない」ことが決め手になりやすいと読めます。
Offers がエンジニア・デザイナー・プロダクトマネージャーに転職理由を聞いたアンケートの結果は「エンジニアの転職活動における「転職理由」」にまとめています。
2020年の調査からは賃金と評価が順位を上げた
全産業で見た転職理由の1位は、5年前の調査から入れ替わりました。厚生労働省「令和7年転職者実態調査の概況」によると、自己都合で辞めた理由の1位は、令和2年調査の「労働条件(賃金以外)がよくなかったから」28.2%から、令和7年は「賃金が低かったから」25.5%に替わっています。
「能力・実績が正当に評価されないから」も15.3%から18.9%に増えました。一方で労働条件(賃金以外)は23.4%まで下がっています(出所:厚生労働省「令和7年転職者実態調査の概況」表11)。働き方の不満で辞める人の割合が下がり、給与と評価への不満で辞める人の割合が上がったのが、この5年の変化です。
転職理由ごとに求人と面接で確かめる点
転職理由がはっきりしたら、その不満が次の会社で解消されるかを、求人票と面接で確かめます。理由を確かめずに転職すると、同じ不満を次の職場でも抱えることになります。上位の理由ごとに、確かめる点を整理しました。
転職理由 | 求人票で確かめる点 | 面接・面談で聞く点 |
|---|---|---|
会社の将来に不安 | 事業内容・プロダクトの段階・募集の背景 | 事業の今後の計画、採用している理由、開発組織の増減 |
賃金が低い | 年収の下限と上限・給与の決め方 | 入社時の年収がどの評価で決まるか、昇給の時期と幅 |
仕事内容に不満 | 業務内容・技術スタック・担当する工程 | 入社後に任される範囲、技術の選定に関われるか |
人間関係 | チームの人数と構成 | 配属先のチームの雰囲気、レビューやフィードバックの進め方 |
評価に不満 | 評価制度の有無・評価の頻度 | 評価の基準と、誰が何を見て評価するか |
労働条件(賃金以外) | 勤務形態・リモートワークの可否・フレックス | 実際の残業時間、オンコールの有無と頻度 |
賃金が理由なら、求人票の年収は下限と上限の両方を見ます。入社時の提示額は経験と面接の評価で決まり、上限の額で入社できるとは限りません。提示額の確かめ方と交渉の進め方は「エンジニアの転職活動時の給与交渉」にまとめています。
会社の将来が理由なら、求人票の「募集の背景」が手がかりです。事業の拡大による増員なのか、退職者の欠員を埋める募集なのかで、入社後に任される仕事も変わるためです。
確かめる点を並べたら、実際の求人を何件か読み比べてみると、自分の転職理由が解消されそうな会社が見えてきます。Offers Jobs では、エンジニア・デザイナー・PdM の正社員求人の一覧と、業務内容・必須スキル・選考フローといった求人の詳細をログインせずに読めます。出社頻度や休日・休暇、社内制度などの条件は、会員登録をすると表示される仕組みです。
面接では不満を次の職場で実現したいことに言い換えて伝える
面接で転職理由を聞かれたら、今の職場への不満をそのまま話さず、次の職場で実現したいことに言い換えて伝えます。転職理由の答えは、入社しても同じ理由で辞めないか、志望動機と話がつながっているかという観点で聞かれると考えて準備しておきます。
言い換えるときは嘘にはせず、本音の不満を「次に何をしたいか」の言葉に直すのが基本です。
不満をそのまま話すと再現性を疑われる
「給与が低い」「上司と合わない」といった不満だけを話すと、面接官は次の職場でも同じことが起きたら辞めるのではないかと受け止めがちです。不満を話すときは、その状況で自分が何を試したか、それでも解消できなかった理由を添えると、辞める判断が一時の感情ではないことが伝わります。
本音の不満 | 面接での言い換え |
|---|---|
給与が低い | 成果を評価と年収に結びつけてくれる環境で、責任の大きい仕事をしたい |
会社の将来が不安 | 事業が伸びている領域で、プロダクトの成長に長く関わりたい |
仕事がつまらない | 設計や技術選定から関わり、担当範囲を広げたい |
評価に納得できない | 評価の基準がはっきりした環境で、成果を確かめながら働きたい |
上司と合わない | チームで議論しながら開発を進める文化の中で働きたい |
残業が多い | 開発の進め方を見直せる環境で、生産性を上げて働きたい |
具体的なエピソードを1つ添える
言い換えた転職理由には、それを裏づける具体的なエピソードを1つ添えます。「成長したい」「評価されたい」だけでは、どの応募者も同じ言葉を使うため、面接官が話し手の経験を確かめる材料になりません。
エピソードは、担当したプロジェクト、そこで感じた限界、自分が試したこと、その結果の順に話すと伝わりやすい構成です。技術面の質問への備え方は「エンジニア面接の技術質問攻略法」にまとめています。
転職理由別の面接での答え方の例文
面接での答え方は、統計で上位の理由ごとに型を決めておくと準備が楽です。以下の例文は、どれも「今の職場で経験したこと」「解消できなかった理由」「応募先で実現したいこと」の順で組み立てています。自分の経験と応募先の事業に合わせて、固有名詞と数字を入れ替えて使ってください。
会社の将来に不安がある場合の例文
「現職では既存の受託開発の保守が中心になり、新しいプロダクトへの投資が止まっています。自分から新規機能の提案もしましたが、事業の方針として予算がつきませんでした。御社のように自社プロダクトを伸ばしている環境で、機能の企画から運用まで長く関わりたいと考えて応募しました。」
賃金が低い場合の例文
「現職ではバックエンドの設計とチームのコードレビューを任されていますが、給与は年次で決まる仕組みで、担当の広さが評価に反映されません。御社の評価制度では役割と成果で等級が決まると伺い、責任の大きい仕事を任されながら、それが評価に結びつく環境で働きたいと考えました。」
仕事内容に満足できない場合の例文
「現職では決まった仕様の実装が中心で、設計や技術選定には関われません。個人で TypeScript と AWS(Amazon Web Services)で小さなサービスを作り、設計から運用までを試してきました。御社では開発者が技術選定から関わると伺い、これまでの実装経験を土台に担当範囲を広げたいと思っています。」
評価に納得できない場合の例文
「障害対応の仕組みを作り直して対応時間を短くしましたが、評価の基準が売上の数字だけで、開発の改善は評価の対象外でした。御社では評価の基準が職種ごとに定められていると伺っています。成果を確かめながら、改善の仕事にも取り組める環境で働きたいというのが応募の理由です。」
人間関係が理由の場合の例文
人間関係が理由のときは、特定の人への不満ではなく、働き方や文化の違いとして話すのが基本です。
「現職では仕様の決定がトップダウンで、開発メンバーが意見を出す場がほとんどない状態が続いています。設計のレビュー会を提案して試しましたが、定着しませんでした。御社のようにエンジニアとプロダクトマネージャーが議論しながら仕様を決める環境で、チームで開発を進めたいと考えています。」
労働条件(賃金以外)が理由の場合の例文
「現職では夜間のオンコールと手作業のリリースが重なり、改善に使える時間が取れない状態でした。リリースの手順を自動化して一部は減らしましたが、体制そのものは変えられませんでした。御社では開発の進め方の改善にも時間を使えると伺い、生産性を上げながら長く働ける環境で力を発揮したいと考えています。」
転職理由を伝えるときに避けたい答え方
面接で転職理由を話すときに避けたいのは、前の職場の批判、志望動機とつながらない理由、条件だけの理由の3つです。いずれも、入社後に同じ不満で辞めるのではないかと面接官に受け取られやすくなります。
避けたい答え方 | 面接官の受け取り方 | 代わりに話すこと |
|---|---|---|
前の職場や上司を批判する | 事実でも、批判の言葉が続くと協調性を疑われる | 起きた事実と、自分が試したこと |
転職理由と志望動機がつながらない | 「技術を身につけたい」と話して応募先の技術に触れないと、どの会社でもよい理由に聞こえる | 応募先の事業や技術と結びつけた理由 |
給与や休みなどの条件だけを話す | 条件のよい会社が他にあれば移ると受け取られる | 条件と合わせて、仕事で実現したいこと |
事実と違う理由を作る | 深掘りの質問を重ねるうちに矛盾が出る | 本音を言い換えた理由 |
デザイナー職の転職理由の整理と伝え方は、「デザイナーの転職理由とは?」が参考です。
転職理由の整理は在職中に進める
転職理由の整理と求人探しは、退職する前の在職中に進めます。辞めてから考えると、収入の無い期間を気にして、転職理由を解消できない会社に妥協しやすくなるためです。
- 不満を書き出して順位をつける: 今の職場の不満を書き出し、統計の上位の理由(会社の将来・賃金・仕事内容・人間関係・評価・労働条件)に分けて、一番の理由を決める
- 今の職場で試せることを試す: 異動の希望、評価面談での相談、業務の改善の提案など、社内で解消できるかを確かめる。試した経験は面接のエピソードにもなる
- 求人で解消できる会社を探す: 一番の理由に対応する求人票の項目(年収・業務内容・評価制度・勤務形態)を見て、応募先を絞る
- 面接用に言い換えとエピソードを用意する: 本音の不満を次の職場で実現したいことに言い換え、裏づけるエピソードを1つ決める
- 内定後に条件を確かめる: 提示された年収・担当範囲・評価の時期が、一番の理由を解消するものかを確かめてから退職を伝える
3の求人探しは、一番の理由に対応する項目を決めてから読むと、読み比べる時間を短くできます。Offers Jobs の求人一覧で気になる求人を集め、求人の詳細の業務内容や必須スキルを読み比べてみてください。自分の転職理由を解消できる会社かどうかを、応募する前に判断しやすくなります。

