日本企業の AI 推進は IT 部門の長が主導している
IPA の調査では、AI の導入・利活用を主導しているのは「IT 部門の長」が 46.0% で最も多く、「CAIO(最高 AI 責任者)」は 2.9% にとどまりました。
次いで「経営層」が 32.1%、「導入や利活用する現場の長」が 27.5% で、AI 責任部門の長などの「CAIO 以外の専任者」は 9.8%、「特に担っている者はない」も 9.7% あります。対象は、AI を導入済み・試験利用中・利用に向けて検討中の企業 1,189 社です。
詰まっている場所も同じ調査に出ています。AI 導入・運用上の課題(n=1,770)は「専門人材が不足している」が 50.1% で最も多く、「生成 AI の効果やリスクに関する理解が不足している」が 45.8%、「適切な利用を管理するためのルールや基準の作成が難しい」が 39.7% と続きました。
ルールの整備を見ると、社内ガイドラインやルールを全社的なものとして定めている企業が 32.5% ある一方で、AI ポリシーも社内ルールも「どちらも定めていない」企業が 16.7% でした(n=1,189)。
出所: 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「DX動向2026」(2026年・調査期間2026年4〜6月)
人材・理解・ルールの3つは、どれも IT 部門だけでは埋めにくい課題です。人材は人事、理解は現場と経営、ルールは法務や情報システムと組まないと進まないので、部門をまたいで役割を割り振る体制が要ります。
AI CoE・AI 推進室・CAIO は機能・部署・役職の呼び名として分ける
AI CoE は機能、AI 推進室は部署、CAIO は責任者の役職を指す語で、同じ体制の別の側面を呼んでいます。
| 語 |
指すもの |
主な仕事 |
| AI CoE(Center of Excellence) |
全社の AI 活用の知見と標準を集める中核の機能 |
標準の策定・共通の基盤・人材育成・案件の評価 |
| AI 推進室 |
AI CoE の機能を持たせる部署の呼び名。DX 推進室や情報システム部の中に置くこともある |
全社の窓口・案件の取りまとめ・ルールの運用 |
| CAIO(Chief AI Officer・最高 AI 責任者) |
AI の活用とリスク管理に最終責任を持つ役職 |
投資の優先順位・高リスク用途の判断・経営への報告 |
規模の小さな会社では、AI 推進室という部署を作らず、経営企画や情報システム部の担当者が CoE の機能を兼ねる形でも始められます。大事なのは名前より、表の右の列の仕事が誰の担当として決まっているかです。
全社の AI 導入のどこに体制づくりが入るかは、AX(AI トランスフォーメーション) の定義とあわせて読むと位置づけがつかみやすくなります。
政府は各府省庁に CAIO を置き、四半期ごとの報告を求めている
政府の生成 AI の調達・利活用のガイドラインは、各府省庁に AI 統括責任者(CAIO)を置き、生成 AI の利活用の推進と AI ガバナンスの司令塔を担わせると定めています。
CAIO は、各府省庁の生成 AI システムの企画・行政データの扱い・調達・利活用・運用・リスクケースの状況を一元的に把握する役割です。職員の AI リテラシーを高める研修や、アドバイザリーボードへ報告するかどうかの決定も担い、生成 AI の利活用が高リスクに当たるかの判断は、リスク評価を踏まえて CAIO が最終決定します。
CAIO には「デジタル統括責任者」か「副デジタル統括責任者」級の職員が想定され、そのどちらかが兼任することもできるとされました。各府省庁の CAIO は生成 AI システムの運営と利活用の状況を一覧にまとめ、四半期に一度程度を目安に、デジタル庁が事務局を持つ「先進的 AI 利活用アドバイザリーボード」へ報告します。デジタル庁は各府省庁からの相談を受け付ける「AI 相談窓口」も運用する形です。
出所: デジタル社会推進会議幹事会「行政の進化と革新のための生成 AI の調達・利活用に係るガイドライン」(2026年6月12日決定)
中央のデジタル庁が標準と相談窓口を持ち、各府省庁の CAIO が自分の組織の推進とリスク管理を持つこの形は、後で比べるハブ&スポーク型にあたります。企業が持ち帰れる点は3つです。
- 責任者を IT の担当者ではなく、組織全体のデジタル化を統括する役職の級に置いている
- 新しい役職を作らず、既存の統括責任者が兼任する形を認めている
- 状況の一覧を定期的に報告させ、高リスクの判断を誰がするかを先に決めている
企業の側にも、AI の活用を求める法律があります。2025年6月に公布された AI 推進法は、AI を事業活動で活用しようとする者を「活用事業者」と呼び、積極的な活用によって事業活動の効率化と高度化、新産業の創出に努めることと、国や地方公共団体の施策に協力することを求めています。
出所: 「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」第7条(令和7年法律第53号・2025年6月4日公布)
集中型・分散型・ハブ&スポーク型は4つの役割の持ち方が違う
3つの型の違いは、方針・標準・人材・案件の選定を、中央の AI CoE と各事業部門のどちらが持つかにあります。
| 型 |
方針 |
標準 |
人材 |
案件の選定 |
向く会社・時期 |
起きやすい詰まり |
| 集中型 |
中央 |
中央 |
中央に集める |
中央が決める |
AI を使う部門が少ない/立ち上げ直後 |
中央の人手が上限になり、案件が順番待ちになる |
| 分散型 |
各部門 |
各部門 |
各部門で確保する |
各部門が決める |
事業部ごとに業務・データ・システムが大きく違う |
ルールとツールが部門ごとにばらつき、同じものを二重に作る |
| ハブ&スポーク型 |
中央 |
中央 |
中央が育て、各部門に担当者を置く |
各部門が出し、中央が評価する |
複数の部門で本番運用が始まった |
部門の担当者の兼務が重くなり、連絡役だけになる |
集中型は、知見が少数の担当者に集まるので、最初の数件を早く形にしやすい型です。標準も1か所で決まるため、情報セキュリティや個人情報の扱いで部門ごとに判断がずれることもありません。その代わり、案件が増えると中央の人手がそのまま処理できる量の上限になります。
分散型は、各部門が自分の業務に合わせて速く動けるのが利点です。ただし全社の標準が無いまま進めると、同じ用途のツールを部門ごとに契約したり、高リスクの用途を誰も判断しないまま使い始めたりしかねません。業種の違う事業会社がグループの中に並び、業務もデータも共通にしにくい会社に向いています。
ハブ&スポーク型は、中央が方針と標準を持ったまま、案件の発掘と実行を各部門に任せる型です。各部門に「スポーク」として AI 担当者を置き、中央の CoE とつなぎます。使う部門が増えて集中型の順番待ちが目立ってきたときに、標準を手放さずに処理量を増やせます。
方針・標準・人材・案件の選定を誰が持つかを先に決める
型を選ぶ前に4つの役割の持ち主を決めておくと、どの型を選んでも担当の空白が残りません。下の表はハブ&スポーク型の場合の例です。
| 役割 |
中身 |
持ち主の例 |
先に決めておくこと |
| 方針 |
AI を何に使い、何に使わないか。投資の枠と優先順位 |
経営層・CAIO |
年度の投資枠と、優先する業務領域 |
| 標準 |
利用ルール、扱ってよいデータ、高リスク用途の判定、使うツールと環境 |
AI CoE(情報システム・法務と共同) |
高リスクの判定を最終的に誰がするか |
| 人材 |
育成、各部門の担当者の任命、外部人材の活用、採用の要件 |
AI CoE と人事 |
各部門の AI 担当者が AI 推進に使える時間 |
| 案件の選定 |
候補の洗い出し、優先順位、PoC の継続と中止 |
各部門が出し、AI CoE が評価する |
継続と中止を決める指標と時期 |
見落としやすいのは人材の役割です。IPA の調査で課題の1位が専門人材の不足だったように、人材を確保する道筋が無いまま CoE を作ると、CoE の数人がすべての案件を抱えることになります。各部門の担当者を任命するときに、業務時間のどれだけを AI 推進に使ってよいかまで決めておけば、兼務のまま手が回らない状態を避けやすくなるはずです。
案件の選定では、PoC を始める前に継続と中止の判断材料をそろえておくことが欠かせません。具体的な決め方は AI の PoC の進め方 で、業務に入る AI エージェントを誰がどう作るかは AI エージェント開発の進め方 で扱っています。
Offers AX は動くものを作りながら社内の運用体制の設計まで支援する
Offers AX は、課題調査から実装、社内の運用体制の設計までを一体で支援し、引き継ぎまでを最初から設計に含めています。
提供の柱は「コンサルティング」「AI エージェント開発」「内製化支援」の3つで、内製化支援には引き継ぎドキュメントの整備、社内の運用体制の設計、エンジニア採用の要件定義支援が含まれます。どこから着手するか決まっていない場合は課題調査から入り、社内に AI 人材がいない場合も、それを前提にした体制で入る形です。
進め方は、初回から動くものを出して数週間で試し、効果を確かめてから本実装に進みます。効果が出ない場合に中止を選べることを最初から契約の前提に含めているので、案件の選定で決めた継続と中止の判断をそのまま使える設計です。構築は原則としてお客様の環境で行い、当社の環境に顧客データを持ちません。
出所: 株式会社overflow「Offers AX」サービスページ(2026年10月27日時点)
業務の現場に近い距離で戦略立案と実装を一体で進める FDE 型の支援(FDE とは)は、CoE が最初の数件を形にする時期と組み合わせやすい形です。常駐はせず、業務の指示は PM を通じて行います。最初の案件を形にしながら社内の運用体制の設計も進めたい場合は、Offers AX のサービス内容をご覧のうえ、無料相談を申し込むからご相談ください。
会社の状況で型を選び、CAIO は判断が部門をまたいだら置く
型は会社の大きさより、AI を本番で使う部門の数と、事業部ごとの業務の違いで選ぶと迷いません。
| 今の状況 |
選ぶ型 |
CAIO の置き方 |
| AI を試しているのが1〜2部門で、全社のルールがまだ無い |
集中型(AI 推進室を少人数で立ち上げる) |
専任は置かず、担当役員を1人決める |
| 複数の部門で本番運用が始まり、案件が順番待ちになっている |
ハブ&スポーク型へ移す |
投資と高リスクの判断が部門をまたぐなら置く |
| 事業部ごとに業務・データ・システムが大きく違う |
分散型(標準だけは全社で1つ持つ) |
グループ全体の標準を持つ役職として置く |
CAIO は、新しい人を外から迎えなくても始められます。政府のガイドラインが既存の統括責任者による兼任を認めているように、最初は CDO(最高デジタル責任者)や CIO、経営企画を担当する役員が兼ねる形で十分でしょう。肩書きより先に、高リスク用途の判断、投資の優先順位、経営会議への定期報告の3つを、その人の仕事として決めることが大切です。
AI 活用が広がらないときは標準と成果の測り方を見直す
体制を作っても活用が広がらないときに見直すのは、組織の型より、標準と成果の測り方です。
IPA の調査では、AI で期待以上の効果があった企業のうち 28.2% が AI や生成 AI に固有のリスクマネジメントを行っていたのに対し、期待した効果がまだ得られていない企業では 5.6% でした。IPA は、AI 導入の効果とリスクマネジメントの実施状況には関係があるとしています。
出所: 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「DX動向2026」(2026年)
どちらが原因かまでは調査から分かりません。それでも、高リスクの判定や扱ってよいデータが決まっている会社ほど、現場が迷わずに使い始められるのは自然な流れです。立ち上げでは、次のような詰まりが起きやすくなります。
- AI 推進室が申請の受付窓口になり、案件を自分で掘りに行かない
- 標準が厳しすぎて承認に時間がかかり、現場が会社の管理外のツールを使い始める
- 知見が CoE に固まり、各部門に引き継がれない
- 成果を作業時間の短縮だけで数え、投資を続けるかを判断できない
立ち上げの最初に決める5つのこと
体制図より先に次の5つを決めて文書にしておくと、後で型を移すときにもそのまま引き継げます。
- 方針の持ち主(担当役員か CAIO)と、経営会議へ報告する頻度
- 高リスク用途の判定基準と、最終的に判定する人
- 全社で使ってよいツールと、扱ってよいデータの範囲
- 最初に取り組む案件と、継続・中止を決める指標
- 各部門の AI 担当者と、その人が AI 推進に使える時間
政府が各府省庁の CAIO に四半期ごとの報告を求めているように、体制が動くかどうかは、作った時点の組織図より、状況を定期的に一覧にして見直す仕組みがあるかで分かれます。まずは集中型の小さな AI 推進室でこの5つを決め、使う部門が増えた時点でハブ&スポーク型へ移す計画を立てておけば、組織を作り直す手間を抑えられます。