事業計画書の基礎知識

起業するときにはまとまった資金が必要というケースは多いでしょう。自己資金だけで足りない場合には融資を受けるために作成するのが事業計画書です。
事業計画書にはどのような書類で、どのような目的があるのでしょうか?解説していきます。
事業計画書とは
事業計画書とは、資金調達をする際に必要な書類です。銀行や公庫から融資を受けるときには、必ず事業計画書の提出を求められます。
どのような事業に、どういった計画で取り組もうとしているのかを説明するための重要な書面です。事業内容や今後の計画が分かりやすく端的に説明されていることが必要ですが、それだけでは足りません。
「この人に協力したい」「ぜひ事業をやって欲しい」と思わせる熱量がこもっていることも大切です。
ロジカルに冷静に分析する部分と、熱量を持って事業について語る部分、両方が揃っていることで、融資を受けやすくなるでしょう。
事業計画書の目的
事業計画書には、主に三つの目的があります。
- 資金調達
- 強みの把握
- 事業戦略の共有
メインの目的は『資金調達』です。開業前の何もないときは、事業計画書だけが銀行や公庫へアピールできる唯一の手段といえます。きちんと作り込み、評価される内容にしましょう。
事業計画書を作成していると、自分の事業に対して今まで気づかなかった『強みの把握』ができます。文字にすることでロジカルに考えやすくなるからです。
強みを理解することで、重要な点に着目した事業計画が立てられます。最適な人員配置も変わってくるでしょう。
事業計画書として書面ができあがってくると、今後の方向性を社内でも共有しやすくなるというメリットがあります。
事業計画書作成のメリット

作成に手間のかかる事業計画書は、融資を受ける予定がなければ作らないこともあるでしょう。しかし、会社経営の上でメリットが大きいので、作成するのがおすすめです。
具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか?
イメージを固められる
事業をスムーズに展開していくためには、ゴール地点のイメージを明確にしましょう。目指す規模や形態はどのようなものなのか、きちんとイメージができていれば、事前準備ができます。
銀行や公庫で用意している事業計画書の用紙には、現時点と軌道に乗ったときの規模を記載する欄が設けられています。この欄をどのように埋めるか考えると、事業展開のイメージが固まるのです。
例えば、飲食店を開業するなら、1人で運営できる規模の個人店として継続したいのか、人を雇い入れ、店舗を任せながら多店舗経営を目指すのか明確にしておきましょう。
この二つは同じ飲食店でも、ゴール地点のイメージが異なると準備すべきもの・今やるべきことに、大きな違いがあります。この部分のイメージを固めることで、順調な事業展開の可能性が高まります。
事業を客観視できる
客観的な視点で事業を見られることも、事業計画書を作成するメリットです。自分の頭の中で考えているだけでは、事業計画を客観視できているとはいえません。書類として目に見える形にすることで、初めて客観的に見えてくるものがあるのです。
改めて書くことで、ぼんやりしてしまうことの多かった事業計画を整理することも可能です。自分なりの気づきを何度も整理することで、これまで思いもしなかったアイデアが生まれることもあるでしょう。
事業を客観的に見ることで、可能性が広がるのです。
目標や計画に沿って運用できる
事業計画書を作るということは、中長期的な目標を立てることです。目標があると、いつ何をすべきかがはっきりします。例えば「1年後の売上30%増へ向けてスタッフを1人雇う」といった具合です。
こうして計画を立てていくと、数年先の計画も明らかになります。すると、資金面でも、いつまでにいくら利益が出て、どれだけ資金が必要かわかるのです。
例えば「3年後、設備投資に500万円必要」ならば、3年後に向けた準備ができます。月々プールできる金額もはっきりするため、必要なタイミングまでに自己資金がいくら貯まるかもわかるでしょう。
自己資金でまかなえるのか、それとも融資が必要なのか、融資が必要ならいくら借り入れたいのか、しっかりと計画を立てて運用していきましょう。
社内向けなど資金調達がなくてもメリット有
融資を受ける予定がないから事業計画書は作っていない、という企業もあるでしょう。しかし、事業計画書は全ての企業に作成をおすすめします。
先々まで計画を立てて売上を予測していれば、事前に税理士に相談して節税対策することが可能です。
また、採用活動にも有利に働きます。創業間もなく実績の乏しい企業を希望する人材は少ないものです。そんなとき、事業計画書があれば、自社の魅力を分かりやすく伝えられます。
現時点では必要ないとしても、計画している将来像に魅力を感じる応募者が出てくる可能性があります。あわせて、十分な準備ができていない点・高いリスクを負っている点など、不十分なところをはっきりさせられるというメリットもあります。
事業計画書の主な項目

事業計画書にはこれを書かなければいけないという特別な決まりはありませんが、最低限盛り込んでおくべき項目について解説します。
事業の内容やコンセプト
事業計画書の中で情熱を伝えるのは『事業の内容やコンセプト』です。なぜこの事業に取り組みたいのか、どのように役立ちたいのか、ということを簡潔に説明しましょう。
情熱を伝えるには、以下の点を意識しましょう。
- ミッション
- 自社らしさ
- 強み
- 顧客のメリット
これらが分かりやすく伝わるように書きます。たとえば「ラーメンが好きなのでラーメン店を開業したい」という表現では、熱量が伝えきれません。
なぜ好きなのか、他のラーメンとどこが違うのか、そのラーメンで顧客にどのように幸せになって欲しいのか、ひとつずつ具体的にしていきましょう。
情熱が伝わると「このラーメンを食べてみたい」「ぜひラーメン店を開いて欲しい」と相手に思ってもらえる可能性が高まります。応援者を増やすことで資金調達に一歩近づくのです。
競合分析と市場規模
事業を始めたときに、十分成長できる余地があることを示すことも大切です。市場規模と成長性がなければ、融資を受けて開業しても成功の可能性が低いと考えられてしまいます。
市場規模の情報収集には、経済産業省・総務省などのデータや、業界団体・シンクタンク・マーケティングリサーチ会社などを利用するとよいでしょう。
競合他社を見つけ、分析することも欠かせません。『商品』『価格』『流通』『販売戦略』に注目して、他社の強みや独自性を分析しましょう。
他社を分析することで、市場で成長していける自社の強みや独自性を見つけることが大切です。
独自性の分析が不十分な場合、競合他社のいる市場への参入を、否定的に捉えられてしまう可能性があります。
戦略や計画
事業計画書には、戦略や計画も盛り込みましょう。『どこで展開するのか』『何を販売するのか』がはっきりしていれば、『ビジネスモデル』を理解してもらいやすいでしょう。
ビジネスモデル作りでは、事業を展開する上で関わる人・会社などを全てあげて、取引内容を矢印でむすんでください。商品やサービスをお客様へ届けるための、販売経路も分かりやすく示しましょう。
あわせて、お客様に商品やサービスを知ってもらうための『プロモーション』の戦略も立てておくのがおすすめです。
よい商品・サービスを作りあげたとしても、戦略や計画がないと思うように利益に結びつきません。事業がとん挫してしまわないためにも、入念に計画しましょう。
財務計画のポイント

事業の継続には、順調な資金繰りが必要不可欠です。そのため、事業計画書には、財務計画も盛り込みましょう。財務計画を立てる上でのポイントを解説します。
売り上げの計画や予測
財務計画を立てるときには、まず『売上計画』や『売上予測』を立てます。
ただし「おそらく5%ずつ増えていく」といような憶測で計画を立てるのはやめましょう。憶測で作った売上計画は実現可能性が低いとみられてしまうからです。
計画を立てるときには、根拠のある数字を用います。見込客数をもとに考える・ここ数年の取引先ごとの売上を参考に予測する、といった具合です。
日本政策金融公庫が紹介している『売上予測の計算公式』を使うのもよいでしょう。事業の形態に合ったものを選べば、売上予測を計算して求められます。
ただし、売れる商品やサービスは、顧客層や商圏に左右されることも多いので、その点も考慮した計画を立てることが大切です。
人員や設備の計画
事業展開として拡大を考えているのであれば、人員を増やしたり設備を増強したりする必要があります。ベストなタイミングで実行するためには、『人員計画』や『設備計画』を立てましょう。
人員計画というと、月々の給料だけを考えてしまうことが多いです。しかし、社員を雇うと他にもさまざまな費用がかかります。社会保険料・通勤費・研修費・退職積立金なども考慮した計画を立てましょう。
設備計画では、導入にかかる費用だけでなく、採算が取れるかどうかや、何年で回収できるかも考えることが大切です。
利益や資金の計画
売上計画や人員計画・設備計画などができたら、それらをもとに『利益計画』も立てましょう。利益計画を求めるには、下記の順番でそれぞれの予測をします。
- 売上
- 売上原価
- 人件費
- 減価償却費
- 販売費
- 管理費
- 借入利息
- 法人税等
最後に、売上から予測した全ての金額を引いていくと、利益が分かります。これをもとに利益計画を立てるのです。
また『資金計画』も重要です。融資の担当者は、返済できる自己資金の有無を重視します。利益が出ていることだけでなく、返済できる資金があることも示しましょう。
その他に事業計画書に盛り込む内容

充実した事業計画書を作るには、他にも盛り込むべき内容があります。それぞれの項目のポイントを知り、的確で魅力を感じられる内容にしましょう。
プロフィールや組織図
どのような人物が事業を実行するのかは、とても大切なことです。創業者や創業メンバーの『プロフィール』を記載します。
プロフィールというと、略歴のようなものをイメージすると思います。学歴・職歴・趣味・特技など、全てを書く人もいるでしょう。大切なのは、事業に関する内容です。
『なぜ事業に携わっているのか』『なぜその事業を成功に導けるのか』その根拠がわかる内容にしましょう。
『組織図』を作成して、事業がどのように遂行されるのか、社内の仕組みを分かりやすくすることも大切です。第三者である銀行の担当者が見ても簡単に理解できる内容にしましょう。
顧客にとってのメリットや社会的背景
事業が成功する根拠として、『顧客のメリット』や『社会的背景』も、事業計画書に盛り込みます。
顧客のメリットは、『マーケティングの4C』といわれる、
- Customer Value(顧客にとっての価値)
- Cost to the Customer(顧客の負担)
- Convenience(利便性)
- Communication(コミュニケーション)
これらを軸に説明しましょう。
「事業によりどのような価値を提供できるのか?」「どのくらいの価格で提供できるのか?」「どのくらい簡単に手に入れられるか?」「企業のメッセージがお客様に届いているか?」を考えるのです。
社会的背景をもとに事業計画が妥当であることを説明することも大切です。例えば、政治情勢・経済環境・社会情勢・技術革新などを根拠に、今後事業が成功する理由を説明します。
よい事業計画書にするために

『融資が受けられる』『人材の採用ができる』といった成果の出る事業計画書を作るためには、全体をとおして押さえておくべきポイントがあります。
ポイントを押さえて、読みやすく魅力的な事業計画書を作成しましょう。
実行計画を明確に
まず大切なのは、とにかく明確に計画を立て、わかりやすく計画を伝えることです。
事業計画書は将来の計画を書くものなので、どうしても曖昧で抽象的になってしまいます。そんな中でもできるだけ根拠のある数字を使い、信頼できる内容にします。
また、数年先の計画を確実に実行できるよう、今何をすべきかを考え、記載しましょう。計画を立てていても、現在の行動に落とし込めていない事業計画書では、信頼されにくいからです。
サマリーをつける
事業計画書の見やすさ向上のために、全ての項目にはサマリーをつけましょう。サマリーとは要約のことです。項目の内容を端的にまとめ、サマリーを読んだだけで、概要がわかるようにします。
事業計画書は内容が多く長くなってしまうことが多いですが、サマリーがあれば、より早く内容を理解してもらえます。
仮説ではなく事実を重視
事業計画書を書くときには、事実を重視することが大切です。仮説はどれだけ充実した内容でも、仮説でしかありません。
しっかりと事実を入れ込んだ事業計画書を作るなら『ファクト&テスト』で、商品やサービスへの需要をあらかじめ確認しましょう。
客観的なデータから引用した数字も、信頼性の高い事業計画書作りに役立ちます。
事業計画書を書く際におすすめの書籍

内容の充実した事業計画書を作るためのポイントを理解できたら、よりよい事業計画書作りのために書籍を読み、内容をブラッシュアップしていきましょう。おすすめの書籍を3冊紹介します。
事業計画書は1枚にまとめなさい
融資担当者目線で、事業計画書作りについて解説されています。政策金融公庫で融資を担当していた著者の解説は、融資を受けたい場合、特に役立つ内容です。
単なる作成方法ではなく、事業計画書作りを通して、起業を成功させることを目的としています。ボリュームが増えがちな事業計画書ですが、シンプルにまとめることの重要性が理解できる1冊です。
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プロ直伝! 成功する事業計画書のつくり方
まんがで事業計画書の作り方を学べるので、「難しいことは苦手」とこれまで避けてきた人でも、事業計画書作りの参考にできるでしょう。活字が苦手な人にもおすすめです。
知識0から事業計画書を作成する主人公とともに、『事業アイデアの見つけ方』『ビジネスモデルについて』学ぶきっかけとなるでしょう。
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ポケット図解 事業計画書がよ〜くわかる本
事業計画書の作り方のマニュアルを理解した上で「なぜ必要なのか?」といった内容についても触れているので、基本からしっかりと理解を深めたいという人に向いています。
融資を受けるという目的はもちろん、投資家へ向けた事業計画書作りをするためにも、十分役立つ1冊といえます。
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まとめ
主に融資のために作成される事業計画書ですが、事業を客観視できる・イメージをはっきりさせられる・目標や計画に沿った運営が可能、というメリットがあります。
そのため、融資を受ける・受けないに関わらず、まずは1度作成してみましょう。これまで気づかなかった強みの発見につながる可能性もあります。
実際に作成する際には、最低限必要とされる事業計画書の項目や、書籍を参考にしましょう。さらに内容が充実した見やすい事業計画書を作成していけるでしょう。