個人事業主という働き方を選ぶメリット

最近では、本業の他に副業で開業する人や、副業が波に乗って本業になってしまう人も少なくありません。そうした人がまわりに増えると、「個人事業主のメリットってなんだろう?」と興味が湧いてきます。
企業に勤めるサラリーマンと個人事業主では、働き方にどんな違いがあるのでしょうか。
働く時間や場所を選べる
個人事業主として働くことの最大のメリットは『時間』と『場所』を選べる点にあると言えます。
サラリーマンであれば、毎朝決まった時間に起床し、身だしなみを整えて、車なり公共交通機関を使うなりして会社へ向かわなければなりません。
中にはフレックスタイム制やコアタイム制が導入されている会社も増えてはいますが、それでも時間の縛りがないわけではありません。
個人事業主であれば、仕事全体を自分が把握しているため、自分のペースで時間を使えます。自宅で開業しているか、もしくは自宅近くに事務所があれば通勤に時間を取られることもありません。
家事や育児と両立しやすい
家庭を持っているのであれば、個人事業主の自由さは、さらにありがたいものに感じるでしょう。午後から動けばいいものであれば朝はゆっくりできるし、逆に夜に時間を空けたければ早朝から仕事に取り掛かることも可能です。
最近では男女共に家事や育児に平等に参加する風潮が強まってきています。保育園に預けていても、朝出かける前の1~2時間と、帰宅から就寝までの2~3時間は、家事や子どもの世話に時間がかかるものです。
会社員で通勤時間を含め拘束時間が長ければ、毎晩子どもの顔を見ることも難しいこともあるでしょう。個人事業主には、子どもの成長を見逃さずにすむという大きなメリットもあるのです。
主婦が扶養の範囲内で働くことも可能
扶養の範囲内で、主婦が個人事業主として開業することも可能です。
まずは、所得税に関わる『年収103万円の壁』について説明します。個人事業主の所得は収入-必要経費で計算されます。また、条件を満たすことで65万円の控除が受けられることになり、最終的に所得が38万円以下であれば所得税は課せられません。
平成30年から、配偶者の年収150万円(所得金額85万円)まで源泉控除対象配偶者とされ、配偶者控除と同額の配偶者特別控除が受けられるようになりました。
しかし、103万円を超えると所得税・復興特別所得税がかかります。基礎控除が48万円になりましたので、例えば事業所得が113万円あった場合に青色申告特別控除65万円(条件を満たした場合)には所得は48万円以下になるため所得税はかかりません。
次に、社会保険に関わる『年収130万円の壁』についてですが、健康保険は組合によって規定がさまざまで、個人事業主であるだけでNGの場合もあるため、必ず確認が必要です。
なお国民年金は、収入が130万円以内であれば扶養のままでいられます。

榎本希
個人事業主として働くメリットを箇条書きでまとめると以下のようになります。
- 働く場所や時間を自由に決められる
- 法律で資格制限があるようなものや制限があるもの以外であれば自分のやりたい事業を行うことができる
- 自分の裁量で仕事をすることができる
- 指揮命令を受けなくてすむ
- 会社の人間関係のストレスがなくなる
- 家事や育児と両立しやすい
サラリーマンが副業として個人事業主になる

会社を辞めて開業しなくても、副業で個人事業主になることが可能です。本業にもやりがいを感じている場合や、まだ独立するほどの自信がない場合には、こうした二足の草鞋を履く方法もあります。
本業があるので不安が小さい
会社が安定してくるのは『創業から5年』くらい経ってからといわれています。脱サラして開業するとなると、本腰を入れて取り掛からなければいけません。たとえ必死にやったとて、失敗する恐れもあるでしょう。
しかし、副業として個人事業主になるのであれば、本業の収入により生活の基盤は確保されたままです。たとえ副業の収入がなかなか増えなかったとしても、不安や焦りは少ないでしょう。
社会保険料は変わらない
サラリーマンであれば、給料から天引きされて『社会保険料』を支払っている人がほとんどだと思います。では、副業として個人事業主になった場合、社会保険料はどう支払っていくのか、2重に支払う必要があるのか確認しましょう。
通常、個人事業主であれば『国民健康保険』に加入するものです。しかし、副業で個人事業主となった場合、本業の会社で加入が義務となっている健康保険と厚生年金保険を払わなければいけません。
会社と個人事業の両方で加入することはできないため、本業を続けたままであるならば、開業したとしても副業の収入にかかわらず、社会保険料の支払い方や保険料が変わることはありません。ただし、所得税や住民税は収入に応じて変わりますので注意しましょう。
20万円以下なら確定申告は不要
会社で年末調整がされているのであれば、副業の所得が『20万円』を超えない限り確定申告の必要はありません。この20万とは総収入から経費を引いた額のことです。収入と所得の額が違うことがあるため、よく確認しておきましょう。
もしも医療費控除などの各種控除を受ける必要がある場合は、所得が20万以下であっても確定申告により還付金が戻ることがあります。

榎本希
会社員を続けながら個人事業主になるメリットを箇条書きでまとめると下記のようになります。
- 収入が安定している
- 副業の事業が趣味と共通する物である場合、趣味が収入になる
- 社会保険は会社で加入できるので変わらない
- 本業以外でも収入が得られるので収入にゆとりができる
- 青色申告であれば最大65万円の控除が受けられる
法人化と個人事業主を比較

思い切って独立・開業を決めたとしたら、次に考えるべきは個人事業主になるのか、それとも『法人化』するのかという点です。
個人事業主と法人、どちらにどんな特徴があるのか見ていきましょう。
個人事業主は手続きが簡単
開業の手続きは個人事業主の方が圧倒的に簡単です。『開業届』、そして控除額の多い青色申告をするのであれば『青色申告承認申請書』の二つを税務署に提出すれば手続きが完了します。
一方、法人化するのであれば定款を作成したり、登記をしたりと、やや複雑な手続きを経ることになるでしょう。個人ですべて行うには、ある程度の知識と時間が要ります。司法書士、行政書士、税理士、社会保険労務士などに相談した方がいい場合もあります。
税金や信用面でのメリットは弱い
個人事業主は手続きは簡単に済む半面、『税金』の面では法人に比べるとメリットは少ないといえます。法人は経営者への給料・保険料も必要経費にでき、それら経費を差し引いた所得額に法人税がかかります。所得税は経営者の所得とした部分にのみ課されます。
法人税は所得税よりも累進性が低いため、これは大きな節税ポイントといえるでしょう。また、信用面においても個人事業主よりも法人の方が優位です。
ただし法人は赤字でも税金の支払い必須
法人の場合、先に述べた法人の所得額に応じて税金が計算されるのですが、住民税は『均等割り』により、所得額ではなく資本金と従業員数によって税額が計算されます。
所得がマイナス、つまり赤字であったとしても会社の規模に応じた住民税が課されるのです。また、事業税も赤字であっても発生します。個人事業主よりも赤字の場合のリスクが高いといえるでしょう。

榎本希
個人事業主のメリット
- 手続が簡単
- 事業所得が290万円以下の場合には事業税は課税されない
- 青色申告であれば最大65万円の控除が受けられる
個人事業主のデメリット
- 社会的信用は弱い
- 所得が多くなると事業税が高くなる
法人のメリット
- 社会的信用は個人事業主より高い
- 事業収入によっては節税になる
法人のデメリット
- 赤字であっても法人税を支払わなければならない
- 社会保険に必ず加入しなければならないため保険料がかかる
- 設立の手続が複雑で費用もかかる
それぞれの働き方にメリット・デメリットがある

会社勤めでも個人事業主でも、兼業するとしても、それぞれメリットもデメリットもあります。どんな性格が独立に向いているのか、働き方をどう選べばいいのか、悩んだときには次の2点を参考にしてみてください。
個人の性格や価値観で向き不向きもある
個人事業主として働くのに向いている人は、下記のような性格が当てはまるでしょう。
- 1人で黙々と作業できる
- コミュニケーションが得意
- 感情コントロールが得意
- 自分に厳しい
- 必要に応じて自己主張ができる
個人事業主は自分が全ての仕事を取り仕切ることになります。そのため、たとえ何時間何日間も一人で仕事をするのであっても、孤独に負けない強さが必要でしょう。逆に、営業も自分次第なので、コミュニケーション能力も必須といえます。
また、立ち直りが早いのも素養の一つです。いつまでもくよくよしているよりも挽回しようと前向きになれる力が要ります。交渉も押されっぱなしでは良い仕事は取れません。ときには強く出るべき場面もあるでしょう。そしてときには潔く頭を下げられる真摯さも要求されます。
勤め人との大きな差は、やるべき仕事を自分で決めるか、任された仕事を完遂する方が得意かという点にあるでしょう。
比較検討し、自分に合った働き方を探そう
会社勤めと個人事業主のどちらが良いかは一概にはいえません。
企業の歯車の一部として専門分野に集中する方が如何なく能力を発揮できる人もいるでしょう。逆に、個人事業主として良いも悪いも引き受け、自分がどこまでやれるか試してみたいという人もいると思います。
要は、自分のやりたい仕事が何なのか、人生において何を最も重視するのかなど、あらゆる面から考えて、向いている働き方を選ぶことが大切なのです。

榎本希
会社員は収入が安定しているという面や、社会保険等の福利厚生面などののメリットがありますが、人間関係のストレスや、やりたくない業務も断れないなどのデメリットもあります。
組織で働くよりも1人で黙々と仕事をするのが合っている場合や、自分の裁量で仕事をしたいという場合には個人事業主という働き方は向いているでしょう。
ただし、個人事業主には収入が不安定な面や、すべて自分の責任で行わなければならない面などのデメリットもあります。
自分の性格やキャリアプラン、経済面などを総合的に考慮して選ぶといいでしょう。
まとめ
個人事業主として働くと、ある程度の自由が手に入ります。家事や子どもの世話に参加することも可能でしょう。これは生活における大きなメリットであるといえます。その反面、すべての責任を自分で負う覚悟も必要になるでしょう。
すぐに会社をやめずとも、副業で個人事業主になることもできます。給与が確保でき、社会保険料などもかわらず保障されるため、不安を軽減して開業できるでしょう。
現代では、さまざまな働き方を選ぶ人が増えています。もし個人事業主になることが自分のライフスタイルに合っていると感じるのであれば、思い切って開業してみてはいかがでしょうか。