開業届に関するメリットとデメリット

それでは開業届のメリット/デメリットはどこにあるのでしょうか。
青色申告でのメリット

「開業届を出すことによるメリットとしては、まず、青色申告を選択することによるメリットが挙げられます。(1)特別控除額が大きい、(2)損金(赤字)繰り越し、繰り戻しが可能、(3)青色専従者を置くことで家族全体の節税効果がある、といった点が代表的ですね。」
該当者が多い(1),(2)について詳しく見ていきましょう。
特別控除額が大きい
税務署に開業届を出すことで、確定申告時に青色申告ができるようになります。逆の捉え方をすれば、開業届を出さないと青色申告ができません。
青色申告のメリットは最大65万円の特別控除があることです。別控除の他にも38万円の基礎控除があるため、この場合『最低でも103万円』が年間所得から差し引かれ、大きな節税効果を得ることができるのです。
青色申告をするときはルールに従って正しく帳簿を作成して保存しておくことや、決算書の提出が必要です。慣れないと難しい事務作業となりますが、最低限の簿記の知識と会計ソフトを使えば初心者でも無理なく書類が作れます。
損金(赤字)繰り越し
個人事業が赤字になった場合、青色申告なら翌年以降に最長で3年間繰り越すことができます。これによって節税効果が期待できますから、大きなメリットです。
例えば、1年目に300万円の赤字で2年目と3年目が200万円の黒字だったとしましょう。その場合、1年目は赤字ですので所得税は0円です。2年目が黒字となっても昨年繰り越した赤字があるため、相殺されて100万円の赤字となり所得税は0円です。
3年目も同様に相殺されてようやく100万円の黒字となり、はじめて課税対象となるのです。このように、赤字繰越は所得税の節税に大きな効果があります。
確定申告以外のメリットも数多い
また他にも屋号を持つことによるメリットも享受できるそうです。
「屋号を持つことによるメリットは、(1)対外的な信用力の向上、(2)屋号で銀行口座を開設(一部認めていない金融機関もある)することで、お金の出入りを公私で区別しやすくなる、といった点が挙げられます。」
他にも「 (1)交際費を含む諸費用を経費として計上しやすくなる(税務署への説明がしやすくなる)、(2)モチベーションの向上」といった幅広い要素で開業届は有効のようです。
開業届を出す上でのデメリットとは

ここまで聞いて、開業届を出さない理由が無いのでは、というくらいメリットづくしですが、逆にデメリットは無いのでしょうか。
「デメリットとしては次のようなものが挙げられます。(1)帳簿作成、維持が必要(経理の最低限の知識は必要)、(2)帳簿や書類(契約書、請求書、領収書等)管理・保管の手間、(3)万一トラブルを発生させた場合は業界内における風評損害(「〇〇屋さんには頼まないほうがいい」など)等、信用力の低下が著しく、信頼回復に時間がかかる。(4)副業の場合、本業である会社員を退職しても失業手当の給付を受けられない。」
(1)~(3)についてはご存知の方も多いと思いますので、失業手当についてご説明します。
副業の場合、本業である会社員を退職しても失業手当の給付を受けられない?
失業手当とは会社を退職した後の生活費を支給する制度です。会社員などは毎月の給料から保険料が天引きされ、失業時の手当に備えています。
ところが、開業届を提出すると個人事業者となるため、失業者ではないとみなされ、失業手当が受け取れなくなるのです。失業手当を受け取っている場合や、受け取る予定なら、開業届を提出するタイミングをよく考える必要があります。
開業届に付随する書類と適切な時期

すでに紹介していますが、開業届に付随する書類に『青色申告承認申請書』があります。どのような書類なのか詳しく見てみましょう。
青色申告承認申請書
青色申告をするためには、事前にこの『青色申告承認申請書』を提出している必要があります。
青色申告は最大で65万円の所得控除が受けられるものです。個人事業主ならば、節税のために積極的に活用したい制度です。
控除額は10万円か65万円です。65万円の所得控除を受けるには書類の『簿記方式』の項目で『複式簿記』を選択してください。『簡易簿記』を選ぶと10万円の所得控除として申請することになってしまいます。
※2020年(来年の申告)以降は、青色であっても特別控除額が10万円、55万円、65万円に分かれます。
ちなみに、開業届も青色申告承認申請書も用紙1枚ずつの提出です。何枚もの書類を提出する必要はありません。
提出の時期に気をつける
青色承認申請書の提出期限は、『青色申告をしようとする年の3月15日まで』です。その年の1月16日以降に新たに事業を開始した場合は、『開業日から2カ月以内』です。開業届と同時に提出して問題ありませんので、同じ日に提出しておきましょう。
開業届に記載された開業日が4月1日の場合、6月1日が青色承認申請書の提出期限です。期限に間に合えば、その年度の確定申告、つまり次の年に提出する確定申告から青色になります。
石澤氏はもともと白色申告だった人は次のような点を気をつけるべきだと指摘しています。
「当初白色で事業を行っていて、後から青色に変更したい場合は、その年の3月15日までに青色承認申請書を提出する必要があります。期限に遅れると、青色申告事業者になるのは翌年になってしまいますので、注意が必要です。」
大切な書類の作成でミスをしたり、締切前に焦ったりしないよう、時間には余裕を持って作成を行うようにしましょう。
開業届の提出先

開業届の手続きをするためには、どこに行けばよいのでしょうか?
税務署へ提出
所得税に関する開業届は税務署に提出する書類です。どの税務署でもよいわけではなく、自分の住んでいる住所を管轄する『所轄する税務署』に提出します。どの税務署の管轄なのかを事前に把握しておきましょう。
また、自宅と事務所を別に構えているときは、一般的に自宅の住所が納税地になりますので、自宅住所を所轄する税務署に開業届を出しましょう。もし事務所に居ることが多いならば、事業所住所を納税地にして所轄する税務署に提出することも可能です。
個人事業税は都税事務所や県税事務所へ
個人事業主は追加で個人事業税についても納税する必要があります。
「個人事業税に関する開業届は所轄の都税事務所や県税事務所が提出先になります。届出書類は原本と写し(コピー)を持参し、受領印をもらって写しを保管するようにしましょう。」
まとめ
開業届は、住んでいる住所を所轄する税務署に提出します。同時に青色申告承認申請書も提出し、確定申告に備えましょう。個人で事業をはじめるときに開業届を出すと、節税効果やモチベーションの向上になど様々なメリットがあります。
しかし場合によっては、開業届を提出すると失業保険がもらえなくなるというデメリットが発生することもあります。また、青色申告承認申請書の提出には期限があるので注意が必要です。
開業届のメリットやデメリットをしっかり把握し、適切なタイミングで提出しましょう。