勘定科目の区分とは

勘定科目とはどのようなものなのでしょうか。これは、会社の運営上必ず発生する収益と費用、資本や資産、負債を記録する時に使われる、仕訳のための分類の名称です。
この勘定科目を使って仕訳を行い、『貸借対照表』や『損益計算書』といった経理上作成することが義務付けられている書類のベースにします。ちなみに、勘定科目の名称についてはこれといったルールがないことから企業ごとに違う項目が多く存在します。
とはいえ、一般的に使用される勘定科目については似たような名称となっていることが多いようです。
勘定科目の基本知識
勘定科目は誰のためにあるのでしょうか。答えは、会社の経営陣はもちろん、社員全員、そして銀行を含む投資家のために存在しているのです。
経営者は、勘定科目をチェックすることで会社のお金の動きを知り、将来の経営判断の材料として活用します。また、投資家は気になる会社のお金の動きを分析して、どれくらいの額をどれくらいの期間に渡って投資するかを検討するために勘定科目を参考にするのです。
勘定科目を知ることで、「会社が何にどれだけお金を使っているのか」と「どれだけのお金を儲けているのか」が分かります。
また、勘定科目の中には課税対象となるものも多く含まれていますので、税金の計算のためにも勘定科目は必要不可欠なものとなっていると言えるでしょう。
勘定科目の決め方とは
勘定科目は、会社ごとに違うということはすでに説明しましたが、A社とB社で同じ名称の勘定科目が同じ意味を持つこともあれば、違う意味になることもあります。それくらい自由に決められるのが、勘定科目の特徴です。
そのため、経理・会計担当者はその会社のルールを把握しなければなりません。例えば、事務用品のように数か月で消費してしまうものは『消耗品費』として計上することが多いのですが、『備品』として計上することもあります。
このようなルールを覚えておかないと、勘定科目を間違ってしまい正しい経営分析ができなくなる可能性がありますので注意が必要です。
資産、負債、資本、収益、費用の5つの区分
勘定科目は、以下の5つに分類されます。
- 資産
- 負債
- 資本(純資産)
- 収益
- 費用
この中で『資産』『負債』『資本』から作成されるのが『貸借対照表』です。一方、『収益』『費用』から作られる表が『損益計算書』となっています。
これら二つの表は、会社の業績や経営状態が分かる財務諸表に分類されるものですので、虚偽のないよう正しく作成しなければなりません。
資産の勘定科目一覧

ここからは、勘定科目の5つの分類を一つずつ解説していきましょう。
まずは資産についてです。資産は『流動資産』『固定資産』『繰延資産』の3種類に分けられます。
流動資産
流動資産とは、1年以内に現金にできるものや費用として計上できるもの全般を指します。この1年という基準のことを『ワン・イヤー・ルール』と呼んでいます。
ただし、このワン・イヤー・ルールに該当しないものでも、仕入れの費用や商品の生産・販売の費用のように会社の営業活動として必要と認められるものは、流動資産に含まれるのです。
流動資産は、貸借対照表に掲載されるものですが、『当座資産』『棚卸資産』『その他流動資産』の3種に分けられます。
当座資産とは、現金や銀行預金、売掛金や受取手形などいわゆる金銭的なものです。棚卸資産は商品や原材料など物として存在するものが含まれます。
その他流動資産は、流動資産、当座資産のどちらにも分類されないもので、前払金や短期貸付金など、会社が他者・他社に対して借りとなっているお金が含まれます。
固定資産
固定資産とは、流動資産と違い1年以上の長期に渡って保有することを前提としている資産を指します。法人税法によると、固定資産として考えられるのは以下の四つです。
- 土地
- 減価償却資産
- 電話加入権
- 上記の資産に準ずるもの
これらのうち、資産の内容によって減価償却資産と非減価償却資産に分けられます。
繰延資産
繰延資産とは、以下の費用の支出を資産計上できるというものです。
まずは会社の『創立費』です。会社を興す時には、定款を作成し登記するために登録免許税がかかるなど、いろいろと費用がかかります。この会社を設立するための費用は資産計上可能です。
創立費と似ていますが、会社の登記後に事業を開始するまでの広告宣伝費や交際費なども、『開業費』として繰延資産に含まれます。
また新株の発行や自己株式の処分にかかった費用である『株式交付費』や、社債を発行するための『社債発行費』、新しい技術の採用や新規市場の開拓のためにかかった『開発費』なども繰延資産として計上できるのです。
流動資産、当座資産のどちらにも分類されないもので、
負債の勘定科目一覧

負債とは、会社の債務全般を指します。具体的には、借入金や買掛金などが含まれます。この負債は『流動負債』と『固定負債』に二つに分けることができるでしょう。
流動負債
負債のうち、1年以内で返済する必要があるのが流動負債です。後述する固定負債とは分けて貸借対照表に記載されます。
具体的には、原材料などの仕入れから商品の販売までといった会社の営業サイクルのプロセスの中でかかる費用である、『買掛金』や『支払手形』などが流動負債に分類されます。
営業サイクルから外れている負債であっても、決算日から1年以内に支払わなければならない項目については流動負債とされるのが一般的です。
会計上、流動負債に対する流動資産の比率は『流動比率』と、流動負債に対する当座資産の比率は『当座比率』と呼ばれます。これらの比率は、会社の短期的にどれくらいの支払い能力があるかの目安として利用されています。
固定負債
流動負債とは違い、支払い期限が決算日より1年以上後になる負債を『固定負債』と呼びます。固定負債は、長期負債という別名で呼ばれることもあります。固定負債には、社債や長期借入金などが含まれているのです。
資本の勘定科目一覧

資本(純資産)とは、資産から負債を引いたもので貸借対照表に記載されています。
株主資本
『株主資本』とは、貸借対照表の『純資産の部』に記載されている金額のうち、株主資本として計上されている部分の合計金額にあたります。具体的には、株主の出資金である『資本金』をはじめ、『資本準備金』や『資本剰余金』などが含まれるものです。
2006年に施工された会社法では、資本から『評価・換算差額等』『新株予約権』『少数株主持ち分』にあたる部分を差し引いたものと定義されました。
株主資本と似た言葉で『自己資本』がありますが、自己資本には評価・換算差額等が含まれますので、異なる意味合いを持つ言葉と言えます。
評価差額
『評価差額』とは、子会社の資産や負債のそのタイミングでの評価額と、個別の財務諸表上の金額との差額のことです。
評価差額があまり重要性を持っていない時は、連結子会社の資産と負債については、個別の貸借対照表に記載されている金額によって連結決算を行うこともできます。
この場合、評価差額の重要性は評価するタイミングごとに判断するのですが、同時に個々の貸借対照表に記載されている項目の時価評価による修正額によっても判断することになります。
収益の勘定科目一覧

収益とは、会社が営業活動をすることで売り上げた収入などの総額を指します。
売上高、売上原価
『売上高』は、会社が商品やサービスを提供することで得た収入の総額です。『実現主義の原則』と呼ばれる、商品やサービスの提供が実現したタイミングで計上することになっています。
この売上高は、損益計算書の一番上に記載されている通り、会社の儲けの計算に役立つ重要な数字です。売上高から売上原価である仕入れの経費や人件費を差し引くと、会社がどれだけの儲けを出しているのかが分かります。
つまり、売上原価を低く抑えられると同じ売上高でも売上総利益を高くすることができるのです。そのため、売上原価を低く設定することが会社の利益にとって大事だと言えるでしょう。
営業外収益
『営業外収益』とは、会社の本業以外で得られる収入の総額です。銀行預金や貸付金などから得られる利子である受取利息や、不動産収入がこれに当たります。
営業外収益に営業利益を加えることで、会社の営業活動だけでなく事業活動全体の利益(経常利益)を算出できるのです。
特別利益
会社が事業を展開していく中で、通常であれば発生しない利益のことを『特別利益』と呼びます。
特別利益の代表的な例としては、固定資産売却益があります。これは、土地や建物などの固定資産を売却した時に得られる利益のことで、一般的な会社ではなかなか発生するものではありません。
また、償却債権取立益という貸倒処理した債権を回収した場合の利益も特別利益として扱います。
その他、火災保険にまつわる保険差益という特別利益もあります。これは、有形固定資産が火災や自然災害による被害を被った時に、火災保険の支払い額が被害による損失より大きい時に出る差額を指しています。
費用の勘定科目一覧

費用とは、会社が収益を得るために必要な支出全般を指します。いわゆる『必要経費』と呼ばれているものです。
販売費及び一般管理費
費用の中でも、一番身近なものが『販売費及び一般管理費』です。この項目には『人件費』『減価償却費』や『広告宣伝費』など、営業活動を行う上で会社が費用として支払う必要があるものが含まれています。
人件費には『役員報酬』と『給与手当』『賞与』があります。役員報酬とは、取締役・監査役の対価であり、給与手当とは役員以外の従業員に支給される給与・手当のことです。
また、従業員に支払われる結婚・出産祝い金や香典など、社会通念上会社の経費として認められる『福利厚生費』もこの項目に含まれます。
その他には、日々の業務の中で使用する事務用品などを購入する経費である『事務用品費』『消耗品費』などがあります。
営業外費用
営業外費用とは、会社の本業以外に発生した費用です。支払利息や社債利息などがこの項目に当たります。
日本の会社は銀行など金融機関からの借入れが高額になることが多く、営業外費用のほとんどが支払利息となっています。しかも、この支払利息が費用の大部分を占めるケースも少なくありません。
営業外利益から営業外費用を差し引いたものを営業外損益と呼び、本業における収支とは分けて計算することもあります。
特別損失
特別損失とは、臨時に発生した損失のことで日常的に発生するものではありません。具体例としては、リストラにかかった費用や災害による損失などがあり、毎年の決算で生じる性質のものではない費用全般を指します。
不動産の売買に関しては、特別利益になることと特別損失になるケースの両方があります。例えば、所有している不動産の帳簿上の資産計上額が1000万円だとしましょう。この不動産が1500万円で売却できれば、500万円の特別利益が計上されます。
逆に800万円で売却すると、200万円の特別損失が計上されます。ちなみに、稼働率が低く資産額を大幅に下回る価値しかない不動産は『強制評価減』の対象となり、実態に合わせた水準の評価額で計上しなければなりません。
法人税
法人税とは、会社の所得に課税される税金のことです。法人税と住民税・事業税を合わせて法人税等と呼び、当該事業年度の納税額が確定したタイミングで計上することになっています。
勘定科目の注意点を知っておこう

このように勘定科目はさまざまな意味を持つ項目がたくさんあるわけですが、勘定科目を理解する上で注意しておかなければならないポイントがあります。
所属する企業ごとに勘定科目は異なる
勘定科目は会社ごとに違いますので、その会社のルールを把握する必要があります。「前に働いていた会社では、この項目はこういう意味を持っていました」と言いたくなるかもしれませんが、会社独自のルールに従わざるを得ないことも多いでしょう。
そのため、経理・会計の経験者が転職した際は戸惑うこともあるかもしれません。しかしながら、法律でこうすべきというルールが定められていない以上、勘定科目はこのような性質のものと理解しておきましょう。
同一の勘定科目を使う
勘定科目は、一度決めたらずっと使い続けるのが基本となります。このことを『継続性の原則』と呼び、一期ごとに勘定科目を変えるのではなく、毎期継続して使用することになります。
なぜ継続して使う必要があるのか。それは、会社の経理の動きを正確に把握する必要があるからです。例えば1期は事務用品を『事務用品費』で処理して、2期目は『消耗品費』で処理したとしましょう。
このように勘定科目が期ごとに変わってしまうと、何にどれだけ出費したかが分からなくなってしまいます。
逆に収益についても同じ製品の売上を期ごとに違う勘定項目にしてしまうと、その製品がどれだけの利益を出しているのか正確に把握できません。
しかし、勘定科目の変更が有効なケースもあります。それは、ある勘定科目の金額が増えすぎて個別に計上したほうが正確なお金の動きをチェックできる時です。この時は実態に合わせた勘定科目を利用しましょう。
業界用語や略称は用いない
最後に、誰が見てもすぐに分かる勘定科目の名称にすることが推奨されています。会計ソフトで使用される勘定科目は、多くの企業が採用している名称なので、使い勝手は良いでしょう。
逆に、業界用語や略称を項目名にしてしまうと、社内では意味が通るかもしれませんが社外ではよく分からないと判断されてしまうかもしれません。そうなると、せっかくの投資の機会を失いかねません。
まとめ
勘定科目を知ることで、会社のお金の動きや経営状況などが分かるようになります。そのためには、ひとつひとつの科目が何を意味しているのかを把握しなければなりません。
しかも勘定科目は会社によって違うものですので、会社ごとの仕訳のルールも把握する必要があります。とはいえ、基本的な考え方は同じですので、勘定科目を使う目的を理解して会社のルールさえ把握してしまえばそれほど難しいものではないでしょう。
勘定科目について注意するポイントを理解した上で、財務諸表をチェックしてみましょう。今まで知らなかった会社の動きが見えるかもしれません。